研究について

研究成果

流起式可動防波堤の性能評価及び実用化研究

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1384 2021年03月
執筆者 菅野高弘・高山知司・平石哲也・東良慶・米山望・後藤仁志・五十里洋行・辰巳晃・長坂陽介・千田優・西園勝秀・深澤貴光・殿最浩司・曽根照人・平井俊之・上出耕三・伊藤忠男・半田英明・松岡春彦・小西武・田中良典・吉田充伸・山本隆信
所属 地震防災研究領域 耐震構造研究チーム
要旨

 津波は地震発生後僅かな時間で陸地に押し寄せる。また、地震により生じた建物の崩壊や地盤の変形等の 直後に襲来する。そのため、機械設備を人の手で動かす余裕が無く、また、ライフラインが破壊されている ことを想定しなければならない。そこで、流起式可動防波堤は津波の被害をもたらすエネルギーすなわち外 洋より水塊として押し寄せる津波の流体力に焦点を当てた。その脅威の指標になる津波流速(流れ)の力で 自動的に起立作動(閉操作)し、陸地への遡上エネルギーを食い止めることで、津波被害を減災させる設備 である。その流起式可動防波堤の特徴について以下に列挙する。
①津波襲来時、自然の力(流速)で作動し起立するもので、地震によりインフラが遮断されても、操作に人 や動力の助けを必要としない。
②防波堤設備と基礎地盤はそれぞれ独立しており、地盤の変形による影響が極めて少ない。
③現場の状況に応じて、引き波にも同一機構によって作動するよう設定可能である。
④航路に設置する状況を考慮し、据付けが簡単であり、施工期間が短い。
⑤構成要素が少ないシンプルな機構から信頼性が高く、品質管理、維持管理も容易である。
⑥通常時は海底面に静置されており、航路等の障害にならない。また、周囲の景観を損ねない。
 これらの特徴を持つ流起式可動防波堤において、平成24年から平成27年にかけて1/200模型及び1/50模型を 用い、京都大学津波水槽での実験及び大阪府立大学回流水槽での実験にて性能評価を行った。その結果、津 波の威力を軽減、津波による被害の減災に効果的であることや津波に十分耐えられる形状であり、実用化に 支障ないことを定性的かつ定量的に明らかにした。それを受け、同じく平成27年に、より実物に近い実大ス ケール(1/10)による模型実験を(国研)港湾空港技術研究所が所有する大規模波動地盤総合水路で行い相似 則の妥当性及び性能の再現性を確認した。
 さらに、数値シミュレーション結果を総合すると、実用化する際、 数値解析手法により、現場環境に適した設計条件等の決定に有効であることを示した。 さらに、本研究では、設計津波、設計津波を超えるレベルの津波に対する取扱い、とりわけ粘り強い構造 が要求される最大津波相当の津波に対する設計手法等を加えて、性能評価の成果のもとに「技術・設計マニ ュアル(案)」を提案した、そこには点検頻度、固定ベルトの点検内容の整理、不測の事態における対処法、 耐久性基準などを含む維持管理及び施工方法等に関する検討結果も含まれている。
 本資料はその成果を報告するものである。

キーワード: 流起式、可動防波堤、津波、遡上津波、減災、高精度粒子法、崩壊挙動解析

全文 TECHNICALNOTE1384(PDF/29,826KB)