研究について

研究成果

海洋鋼構造物の集中腐食および電気防食に関する最近の知見

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1369 2020年03月
執筆者 山路 徹・田土 弘人・川瀬 義行・小林 厚史・吉田 倫夫
所属 構造研究領域 材料研究グループ
要旨

 鉛直に連続している港湾鋼構造物(鋼矢板、鋼管杭など)において、平均干潮面(M.L.W.L.)直下付近に集中腐食が生じることは広く知られた事実である。この集中腐食を防ぐため、「港湾の施設の技術上の基準・同解説(以下、技術基準)」では、1999年の技術基準改訂時に、L.W.L.-1m以上には被覆防食、M.L.W.L.以下には電気防食の適用が標準となった。
 電気防食(流電陽極方式に限定)について、防食設計で用いられる「防食率」については、技術基準においては90%が標準となっているが、この値は諸条件(実鋼構造物に流電陽極が水中溶接されるまでの無防食期間等)を考慮し、安全側に設定されたものである。適切な設計・施工・維持管理がなされた条件下においては、90%より高いことが経験的に知られているが、その実態は明確ではない。また、現地での施工条件や構造形式の都合上、鋼構造物の被覆防食の下限深度の変更(L.W.L.-1mより引き上げ)を検討する場合もある。しかし、1)技術基準でL.W.L.-1m以上に被覆防食の適用が標準となっている、2)干満帯付近での電気防食効果の実態についての報告例が少ない、3)集中腐食のメカニズムが明確でない、等の理由から、下限深度の変更の判断が難しい場合もある。 上述の課題を踏まえ、本文では、1)海洋構造物での集中腐食メカニズム、2)海中部での電気防食効果(防食率等)、3)干満帯付近における電気防食効果に関して、実構造物調査や暴露試験に基づいた検証を行った。また、電気防食が適用された海洋鋼構造物の維持管理の高度化(省力化)を目的として、4)電気防食の点検診断手法についても検討を行った。
 本検討より得られた成果を以下に示す。
1)暴露試験より、M.L.W.L.直下付近の集中腐食に干満部のさびが寄与していることが確認された。
2)テストピースでの調査結果より、海中部での防食率は90%よりも高いことが確認された。また、電気防食効果に関する指標として、「防食時の腐食速度」の方がより適切である可能性を見出した。
3)2つの実海域での調査結果において、干満帯においても浸漬率80%程度以上の場合、電気防食の効果は十分に発揮されていた。
4)過去の調査結果等により、実構造物での電位測定を基に、流電陽極の寿命が設計耐用年数以上であることを推定できる可能性が示された。

*R2.12.10 末尾に「付録C テストピースによる調査結果(650 組)」を追加

キーワード:海洋環境、鋼構造物、集中腐食、電気防食、干満帯

全文 TECHNICALNOTE1369(PDF/4,944KB)