研究について

研究成果

アンサンブルカルマンフィルターによる閉鎖性水域の流動解析に向けたデータ同化の計算条件の検討

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1367 2020年02月
執筆者 松崎 義孝・井上 徹教
所属 海洋情報・津波研究領域 海洋環境情報研究グループ
要旨

 港湾空港技術研究所では青潮、赤潮、貧酸素の発生予測等を行うために、伊勢湾や東京湾を対象としたリアルタイム流動水質予測システムを開発している。その計算精度を向上させるため、観測値を数値モデルに融合するデータ同化の開発に取り組んできた。しかしながら、閉鎖性水域の流動のデータ同化を行う際の適切な計算条件が明らかでない。特に、各物理量間の空間相関を考慮した誤差共分散行列を計算するためのアンサンブルを作成する際のシステムノイズの与え方が重要である。従来は数値モデルの結果にランダムなノイズを加えて初期条件のアンサンブルを作成することが一般的であった。閉鎖性水域のシミュレーションでは境界条件の持つ誤差による影響が大きいと考えられた。そこで本研究では、データ同化手法の一つであるアンサンブルカルマンフィルターによる閉鎖性水域の流動解析に向けたデータ同化の計算条件の検討を行った。その際、新たに境界条件にノイズを与えて助走計算を行い初期条件のアンサンブルを作成する方法を試みた。検討は2つ行った。まず、システムノイズの与え方に着目した矩形のモデル海域による数値実験を実施した。その結果、提案したシステムノイズの与え方によりデータ同化が実施可能であることを確認した。また、システムノイズを与える位置でデータ同化結果が変わるため、どこにシステムノイズを与えるかが重要であった。最後に、矩形のモデル海域を対象とした数値実験により得られた計算条件の知見が実海域に適用できるかを検証するため、伊勢湾を対象とした実観測値を用いたデータ同化を実施した。その結果、データ同化後の解析値と観測値の水温のRMSEは、データ同化前と比較して1.09°C改善した。したがって、本計算条件において、開境界水温と河川水温の境界条件にシステムノイズを与えて助走計算を行い初期条件のアンサンブルを作成する方法が有用であることが実観測値を用いたデータ同化においても示された。

キーワード:データ同化、アンサンブルカルマンフィルター、伊勢湾シミュレーター、双子実験、伊勢湾、水温

全文 TECHNICALNOTE1367(PDF/6,745KB)