研究について

研究成果

浅海変形後の多方向不規則波の造波とその特性 - 水深一定の造波面に沿う複数の方向スペクトルによる造波 -

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1337 2017年09月
執筆者 平山克也、相田康洋、中村聡孝
所属 海洋研究領域 波浪研究グループ
要旨

 多方向不規則波を対象とした平面模型実験では、実験波がほぼ沖波とみなせる水深で造波し、それ以降の浅海変形は水槽内に設置した海底床模型上で再現される。しかし一方で、実験対象範囲は有限な平面水槽の大きさや縮尺効果等による制約を受ける。そこで本研究では、波浪変形計算により算定された沿岸方向に一様でない浅海変形後の方向スペクトルを直接造波できるよう既存のサーペント型造波装置を改良した。具体的には、98+2枚の造波板(長辺側69+1枚、短辺側29+1枚、端部の造波板を含む)が設置された全100台の造波機からなる従来の駆動機構はそのままに、1枚で8台の造波機を制御することができる新型制御基板を新たに導入し、同時に造波できる多方向不規則波の成分波数を1000波から2000波に倍増させた。また、造波ソフトウェアにおいては、これらの成分波の構成を各造波機で共有しつつ、各造波板位置で異なる方向スペクトル形状に応じて各成分波の振幅を自在に調整するための機能を新たに開発・導入した。さらに、これらの振幅調整を適切に実施するエネルギー平衡方程式法ベースの支援ソフトウェアを新たに作成し、造波システムの一部として実装した。これらの改良により、実験範囲の縮小による実験コストの削減や模型縮尺の拡大による実験精度の向上が期待される。
 そこで、この新たな方法による造波特性を明らかにするために、沖波としての多方向不規則波に加え、造波装置の沖側に仮想的に設けた島防波堤及び球面浅瀬背後でみられる浅海変形後の多方向不規則波を一様水深場で造波した。その結果、エネルギー平衡方程式法による出力スペクトルを用いる新たな造波法では、従来の造波法に比べ、造波波高及び周期が僅かに小さくなることに留意すべきであるものの、平面水槽内に防波堤模型を設置することなく、港内の回折波の伝播状況を比較的よく再現できることが確認された。しかしながら、屈折波スペクトルを与えて造波した多方向不規則波は、球面浅瀬背後の波の収れん等の波浪場を必ずしもうまく再現できなかった。この原因はエネルギー平衡方程式法により算定される波浪変形では波の非線形性が考慮されないためと考えられるため、造波面の沖側に仮想的に設置する海底地形は、沖波が非線形変形しない程度までの水深に留めるべきであることが示唆された。なお、造波面で一様でない造波スペクトルに対する造波検定の効率化・高精度化に関する検討は、今後の課題である。

キーワード:サーペント型造波装置、多方向不規則波、浅海域、波浪変形

全文 TECHNICALNOTE1337(PDF/1,860KB)