研究について

研究成果

耐震性能照査における鋼管部材のモデル化法の提案

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 56-2-1 2017年06月
執筆者 大矢陽介,塩崎禎郎,小濱英司,川端雄一郎
所属 地震防災研究領域 耐震構造研究グループ
要旨

 近年の杭式構造物では経済設計という観点から、直径D が大きく、板厚t が薄い鋼管杭が用いられる傾向にあり、径厚比(D/t)で100 程度の大径厚比の円形鋼管が採用されるケースが多い。また、レベル2 地震動を対象とした耐震性能照査の結果を見ると、例えば、桟橋の斜杭や矢板式岸壁の控え組杭では、鋼管杭に大きな軸力が働くケースが多い。既往の研究より、このような径厚比が大きい鋼管杭の曲げ耐力は、断面計算から算定される全塑性モーメントを下回ること、また、軸力が大きいほどこの傾向が強いことが指摘されている。
 平成 19 年に改正された「港湾の施設の技術上の基準・同解説」では、鋼管を構造部材とする構造物のレベル2 地震動に関する偶発状態に対する照査項目として、全塑性モーメントが規定されている。これに対応して、耐震性能照査として実施される鋼管杭と地盤の相互作用を考慮した地震応答解析では、鋼管杭は全塑性モーメントを折れ点とするバイリニア型の構成則が用いられることが多い。そのため、大径厚比の鋼管部材の構造性能を適切に評価するために、全塑性モーメントに基づく危険側となる評価法を排除し、鋼管部材の変形性能を考慮した合理的なモデル化法の構築が不可欠となっている。
 本研究は、三次元有限要素法による数値解析の結果を基に、耐震性能照査手法として一般的な二次元地震応答解析で用いられる梁要素を対象とした鋼管部材のモデル化法を提案した。提案法は、径厚比および軸力比に応じた耐荷性能の評価が可能であり、照査項目として全塑性モーメントの代わりに塑性率を用いた限界曲率を採用することで、大径厚比および高軸力比条件下の変形性能の評価が可能である。片持ち梁問題で従来法と提案法の限界値の比較をしたところ、全ての条件で提案法の耐荷性能は小さな値となった。一方、大径厚比かつ高軸力比の一部条件を除き、変形性能は提案法の方が大きな値となった。

キーワード:鋼管杭、杭式桟橋、局部座屈、全塑性モーメント、耐震性能照査、地震応答解析

全文 REPORT56-2-1(PDF/2,194KB)