研究について

研究成果

津波による油流出に関する数値計算法の開発

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1327 2016年09月
執筆者 松崎義孝、藤田勇
所属 新技術研究開発領域 油濁対策研究チーム
要旨

 2011年3月の東北地方太平洋沖地震、及びそれに伴う津波により多くの海岸付近の施設が被災した。貯油タンクを持つ施設においては、貯油タンク本体や周辺の配管から漏油し、多くの油が陸上や海上に流出した。ひとたび港湾施設等から油流出が発生し海上に拡がると、短期的及び長期的に様々な被害を引き起こす。今後予測される津波による油流出被害に備えるため、油の移流及び拡散範囲を予測する数値計算手法の開発が期待されていた。
 本論文では、海上流出油の移流及び拡散の数値計算法であるOIL-PARI(松崎・藤田、2014)に高潮・津波数値シミュレータSTOC(富田・柿沼、2005)を用いた津波の計算結果を用いて、東北地方太平洋沖地震に伴う津波による油流出に関する再現計算を実施した。対象は、宮城県気仙沼港、仙台塩釜港仙台港区、岩手県大船渡港の3港とし、津波によって流出した油の移流及び拡散計算結果について考察し、課題を整理した。
 数値計算の結果、気仙沼港や大船渡港のように油の流出源が湾奥にあり、湾口までの距離がある場合、津波の引き波による移流のみで油は湾外に流出せず、大部分が湾内にとどまるものと考えられる。津波の影響が収まった後は風等の影響で油は移流及び拡散するけれども、震災時は弱い西風が卓越しており、気仙沼湾や大船渡のように南北方向に長い場合は、油は湾外に流出しにくい条件であった。一方で、仙台塩釜港仙台港区のように油流出地点が湾口に近い場合は津波によって油の一部が湾外に流出するものと考えられる。
 本論文において、津波による油流出に関する数値計算法の基礎を構築することができた。津波により流出した油の移流拡散現象をさらに理解するためには、(1)災害時の油拡散に関する観測データの収集、(2)津波の流速の再現結果の検討、(3)津波によって流出した油が海底に沈降する現象についてどのように評価するか、また対象とする港湾の底質状況及び津波による攪拌エネルギーの評価を行う必要があると考える。

キーワード:油流出、津波、数値計算、粒子追跡モデル、再現計算

全文 TECHNICALNOTE1327(PDF/17,379KB)