研究について

研究成果

鋼管杭による防波堤補強工法の津波越流時の安定性に関する研究

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1298 2015年03月
執筆者 有川太郎、及川森、森安俊介、岡田克寛、田中隆太、水谷崇亮、菊池喜昭、八尋明彦、下迫健一郎
所属 海洋情報研究領域 上席研究官(耐波設計担当)
要旨

 東北地方太平洋沖地震における教訓から、防波堤には、設計外力を超過した外力が作用しても完全には倒壊せず、越流時でも粘り強く防護機能が確保される構造が求められている。  既存の重力式防波堤の粘り強い対策のひとつとして腹付工を用いた補強(以下、腹付方式)があるが、大断面になりやすいことが課題であった。そこで筆者らは、特に堤頭部や背後に航路を擁する狭隘な断面においても省スペースな対策を可能とすべく、港内側マウンドに鋼管杭を連続的に打設して鋼製壁体を構築し、ケーソンと杭の間に中詰めを施す補強工法(以下、杭方式)を考案した。杭方式では杭の根入れにより、ケーソン下部に亘る洗掘防止、および津波力を地盤に負担させるケーソンの安定性向上を期待しているが、水理的な影響を考慮した安定性の評価はなされていない。  
 そこで本研究では、津波の越流時における補強工法として杭方式を適用した防波堤の安定性について縮尺1/25の水理模型実験を実施し検討を行った。また杭方式を適用した場合の防波堤設計時における荷重の考え方について一例を示し、外力(津波力)検討時における数値計算の適用性について検討を行った。その結果、杭方式を適用した場合について、以下のことが明らかになった。
1) 越流時でもケーソンの抵抗性能が向上することが分かった。
2) 水理模型実験で観測された主要な防波堤の破壊モードは、次の2通りである。
 ①大規模な洗掘が生じると、杭の転倒が徐々に進行しケーソンが大変形する。このとき杭の突出によりケーソンの完全な倒壊が防止され、ケーソンの天端高が保たれるため、洗掘を許容した条件でも、防波堤の防護機能が粘り強く保持されることが期待できる。
 ②杭の突出長・ケーソンの自重が不十分となると、杭を乗り越えてケーソンが転倒する。
3) 破壊モードを踏まえ、本論ではケーソン・杭に作用する荷重を次のように考えた。
・ケーソンに作用する津波力:ケーソンより港内側の杭・中詰の存在は津波力にはほとんど影響しないため、ケーソン前背面の水位とケーソンに作用する津波力の関係は、無対策の場合と同様である。外力検討には数値計算が活用できる。
・中詰を伝達してケーソンに作用する杭反力:津波力の水平成分に対するケーソンの底面摩擦力の不足分とし、ケーソンへの作用高を中詰高の中央とする。このとき、水理模型実験における転倒直前のケーソンの回転に関わる釣合いが満足される。
・杭前背面における地盤反力:港外側はケーソン端趾圧と底面摩擦力、港内側は最大洗掘深を考慮した受働土圧としたが、気中載荷実験・FEMによる詳細な荷重検討、港内側の洗掘形状の検討が今後の課題である。

全文 TECHNICALNOTE1298(PDF/5,594KB)