研究について

研究成果

ブシネスクモデル(NOWT-PARI)を用いた高精度港内静穏度解析法の提案

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1159 2007年06月
執筆者 平山克也
所属 海洋・水工部 波浪研究室
要旨  港内水深が一定であることを仮定し、波の回折・反射変形を考慮して港内波高分布を算定する高山法に対し、複雑な海底地形をそのまま入力できるブシネスクモデルでは、港内で生じる屈折・浅水・砕波変形を考慮した港内波高分布を算定することができる。また、実海域への適用を可能にするさまざまな境界処理法を備えたNOWT-PARIでは、港内外の防波堤や岬などの障害物に起因する回折・反射・透過変形に加え、水面波の非線形性・分散性および不規則性・多方向性などもすべて同時に計算されるので、港湾や海岸を対象とした実海域で起こりうる波浪変形をほぼ再現できると考えられる。  ところで、防波堤延伸や消波工設置の効果などを定量評価し、安全で使い易い港湾を計画するための指標として、港内静穏度および荷役稼働率が定義されている。これらの算定には、沖波波浪出現頻度分布をほぼ代表する各入射波を設定した複数の港内波浪変形計算を実施することが必要であるが、計算負荷の小さい高山法はこの要求に適し、かつ水深が一様とみなせる港内の波高分布を比較的精度よく算定できる信頼性と汎用性を有しているため、港湾設計の実務においてこれまで広く用いられてきた。そして、現在の港内静穏度解析法は高山法をベースとして構築されている。すなわち、港内波浪出現頻度分布を算定するために行う波浪変形計算の各ケースでは、入射波高は1mで一定とし、周期および波向の違いによる港内波高比の変化のみが考慮される。これは、港内での屈折・浅水・砕波変形が算定されない高山法による計算結果では、入射波の波高や波形勾配による港内波高比の変化が生じないためである。  ところが近年では、船舶の大型化に伴う大水深バースや航路、泊地の整備、あるいは海域環境に配慮したさんご礁や岩礁等の浅瀬の保全などにより港内地形が複雑化・多様化し、これらを考慮しない従来の港内静穏度解析法では対応しきれない港湾もみられるようになっている。そこで本研究では、このような港湾における波浪変形計算にブシネスクモデルを適用し、かつ入 射波の波高や波形勾配による港内波高比の変化を考慮して、港内の対象岸壁における港内静穏度ならびに荷役稼働率を算定する「高精度港内静穏度解析法」を提案した。  すなわち、透水層を用いた任意反射境界処理法に加え、乱れ生成項に段波によるエネルギー損失を適用した乱流モデルに基づく砕波減衰計算法、ならびに引き波時に海底面が露出することも許容する遡上計算法を備えた最新ブシネスクモデル(NOWT-PARI、Ver5.2)を対象として、2つの具体的な港湾を例に、入射波高を一定とした従来の方法、および波向、周期に加え入射波高をも変化させた本研究の方法によって港内静穏度を算定した。さらに、一定の荷役限界波高を用いる従来法と、船型、周期、波向によって異なる荷役限界波高を用いる標準解析法を適用して荷役稼働率を算定した。これらの算定結果を比較したところ、港口周辺に浅瀬や珊瑚礁が広がる港湾では、とくに港内での砕波変形の影響により、従来の方法に比べ高い静穏度(=従来法による荷役稼働率)および荷役稼働率が算定される傾向にあることが明らかとなった。ただし、低潮位時には浅水変形によって対象岸壁の静穏度ならびに荷役稼働率が逆に低下することがあり、注意を要する。
全文 /PDF/no1159.pdf