研究について
研究成果
干潟再生の可能性と干潟生態系の環境変化に対する応答-干潟実験施設を用いた長期実験-
発行年月 | 港湾空港技術研究所 報告 043-01-02 2004年03月 |
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執筆者 | 桑江朝比呂、三好英一、小沼晋、井上徹教、中村由行 |
所属 | 海洋・水工部 主任研究官 |
要旨 | 大型水槽(メソコスム)内に微生物から二枚貝・ゴカイなどの大型底生生物まで生息可能な干潟環境を再現し、時間の経過とともに生物が自然に定着して生態系が発達していく様子を追跡することに成功した。さらに、その生態系の構造や諸機能が自律安定していることを確認した。環境条件が適切であれば、干潟生態系の創造が技術的に不可能でないことを実証したこの成果は、「人工干潟の成功事例はない」といわれていた干潟造成技術への不信感に対し、意識改革を迫るものである。造成干潟における生態系の構造および機能の特性を明らかにするために、メソコスムに再現された干潟を造成干潟のモデルケースとし、メソコスムにおける生息生物相や物質循環を自然干潟と比較した。その結果、メソコスムでは、(1)バクテリアや底生微細藻類などの微生物が多く、無機栄養塩の除去能力が優れていること、(2)大型生物の個体数および種類数が少なく、短命の種が卓越すること、などが明らかとなった。次に、干潟が造成されてから生物相が安定するまでに要する時間を明らかにするため、生態系創出後の底生生物群集の変遷を6年間にわたってモニタリングし、時間経過に伴う底生生物群集の変化を調べた。その結果、底生動物の種類数については6年が経過してもなお増加傾向にあり、生態系がいまだ発達段階にあることがはじめて定量的に明らかとなった。この知見は、干潟造成後の事後モニタリングを長期間実施する必要があることを示唆している。さらに、生態系全体の環境条件を制御しながら比較実験が行えるというメソコスムのメリットを生かし、実験の途中でメソコスムの環境条件を変化させ、底生生物群集の環境変化に対する応答について調べた。その結果、(1)干出時間が長くなると、個体数や種類数が減少し、優占種も変化すること、(2)干潟堆積物が撹拌されると、個体数および種類数は初めのうち激減するが、約半年で回復すること、などの現象について、現地観測では困難であった因果関係の明確化ができた。現場の造成干潟において大きな地形変化(外力による堆積物の移動や、地盤高の変化による干出時間の変化)が頻発している状況のなか、これらの知見は地形変化に対する生物群集の応答を実測および予測しつつ対策を講じる、順応的管理(adaptive management)を実施するうえで有用である。 |
全文 |
/PDF/vol043-no01-02.pdf
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