研究について

研究成果

グリーンベルトを用いた南太平洋地域の津波対策

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 042-02-01 2003年06月
執筆者 平石哲也、原田賢治
所属 海洋・水工部 波浪研究室
要旨  環太平洋地震帯の南縁に位置するインドネシアやパプアニューギニア地方は、従来から数々の地震被害とそれに伴う津波被害を受けてきた。その中でも1998年パプアニューギニア北岸のシッサノ地区を襲った津波は局所的に15mの遡上高を記録し、2000人の命を奪っている。また、2000年インドネシア東部スラウェシ島の津波は2-4mの高さにも係わらず、海岸の家屋をすべて流し、沿岸の家屋を破壊した。このような津波被害を軽減し、沿岸の居住区の安全性を高めるためには、地震と津波に関する知識を普及し、地元住民が地震後すみやかに避難できるような体制をつくることがまず重要である。  しかし、地震が沖合の海洋で発生し、沿岸では強い揺れを感じない場合や、子供、老人等の避難行動が迅速にとれない災害弱者を守る場合には、ソフトウェア的な対策だけでは不十分である。そのため、人ロの集中が進む地区では、我が国で多く採用される防潮堤や防波堤の建設が強く望まれる。ただし、南太平洋地域は社会資本の蓄積が不十分で、高額な防潮堤等のハードウェアの整備は難しい。そこで、沿岸の環境整備にも有益で、地元住民の協力で簡単に整備できるグリーンベルトによる津波防災を提案した。グリーンベルトは高さ数mの幹と四方に広がる葉部を有する熱帯性の樹木林で、植樹により海岸部に育成する。  津波来襲時のグリーンベルトの効果を定量的に明らかにするために、1/50縮尺の模型を用いてグリーンベルトによる津波水位、津波流速、津波波圧の低減量を調べた。水流圧力の低減量で比較すると、グリーンベルトによる低減率は消波ブロックで製作された海岸堤防とほぼ同一であり、防潮堤や海岸堤防のハードウェアによる津波対策施設と同様の効果を期待できることが判明した。そこで、模型実験結果から導いたグリーンベルトの抗力係数を数値計算に用いて、1998年シッサノ地区津波を対象としてグリーンベルトの効果を定量的に調べた。その結果、10m四方の土地に20~30本の特定樹木を育成すると、樹木林がない場合に比較して最大津波高を1/2程度に低減できることがわかった。
全文 /PDF/vol042-no02-01.pdf