研究について

研究成果

波高補正係数に関する一考察

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 000-13-02 1967年04月
執筆者 広本文泰
所属 水工部 波浪研究室
要旨

 水圧式波高計を使って測定された水中の圧力変動の振幅から進行波の波高を推定するためには、一般に微小振幅波理論による波圧の式が用いられ、実測値とのくいちがいを補正するために、次式で定義され、経験的に決定される。
 n=(ρgH cosh 2πS/L1)/(lΔpl cosh 2πd/L1)
すなわち、微小振幅波理論によって算定される圧力変動の振幅と実際の圧力変動の振幅lΔplとの比が用いられている。各地の海岸における従来の観測結果によると、波高Hを使って微小振幅波によって算定された圧力変動の振幅は、圧力変動の振幅の実測値よりかなり大きくなっており、nは1.3~1.5となることが報告されている。このように、算定値と実測値との間に大きな差異が見られるのは、nが波動の非線型形の効果のほかに、ランダムな波を有義波で代表させるという便宜的な方法を用いたことによる誤差を含んでいるためと思われる。
 本報告では、前者のみについて考察した。まずSkjelbreiaの3次近似の速度ポテンシャルを使って水中圧力の一般式を求め、これをもとにして圧力変動の各調和成分の大きさと相対水深や波形勾配などの波の特性との関係について考察したほか、水面変動についても同様の検討を行った。水面変動については、さらに計算された各調和成分の大きさと、合田が水路実験で得たデータとの比較を行ない、相対水深d/L>1/7の範囲では、3次近似解は実験値とかなりよく合致することを確かめた。
 以上の考察にもとづいて、進行波の非線形性の影響を考察した波高補正係数の大きさについて具体的に評価したほか、算定値と浜田・光易・長谷の規則波を使った水路における実験値との比較を行ない、その結果、実験値は全体の傾向として算定値に則した変化をしているが、個々については実験値の方が少し大きくなることを見出した。
 算定値および実験値の両者から判断して、波形の非線型形にもとづくnは、大きくても1.2~1.25程度であって、水深と沖波々長との比が0.1より大きいときには、むしろ1より小さくなっている。したがって海岸における実測値がn=1.3~1.5とかなり大きくなることは、波の非線型効果によっては説明できず、むしろこの影響は小さいと見るべきであって、nは現地波浪の統計的特性に大きく支配されると見るのが妥当と思われる。また、現地波浪の場合は、海底勾配の影響や表面波の干渉によって生じた束縛波がnより大きくさせる一要因となるであろうことを指摘した。

全文 /PDF/vol000-no13-02.pdf