研究について

研究成果

0価鉄等の鉄材投入時におけるシノブハネエラスピオおよびアサリへの影響に関する室内実験

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 64-2-2 2025年06月
執筆者 井上 徹教
所属 海洋環境制御システム研究領域 海洋環境制御システム研究領域長
要旨

 本稿は“Marine Pollution Bulletin”で出版された論文“Experimental study on harmful effects of zero-valent Iron on Paraprionospio patiens”にアサリの実験結果を追記し,再構成したものを日本語訳したものである. 
鉄は必須微量元素として生物にとって重要な要素であるとともに,水域においては酸化還元反応において重要な役割を果たす物質としても知られている.この性質を利用して水域環境改善のために鉄材を使用する検討が多く行われているが,その沿岸域での利用における影響については十分な検討がされていない.そこで本研究では,鉄材の底生生物への影響に関する実験的考察として,沿岸域を代表する底生生物であるシノブハネエラスピオ(Paraprionospio patiens)およびアサリ(Ruditapes philippinarum)について,3 種の鉄材(0 価鉄,酸化鉄,酸化水酸化鉄)の存在下での暴露実験を行い,それらの影響の有無について検討した. 
 一般に,鉄は鰓や気孔,腸内に蓄積することによる物理的な悪影響があること,および生体内での活性酸素の生成による酸化ストレス等の慢性的な影響があることが指摘されている.しかし本実験においては,0 価鉄の添加直後からシノブハネエラスピオが異常行動を示すことが認められ,14 日間の平均生存率も 0 価鉄の添加で有意に低下する結果となった.以上から,0 価鉄はシノブハネエラスピオに対して,悪影響を及ぼす可能性が指摘された.堆積物表面に 0 価鉄が存在する場合に,堆積物中のシノブハネエラスピオの生存率が低下するとの知見については,著者が知る限りでは初の報告である.一方で,酸化鉄,酸化水酸化鉄への暴露では,対照実験区と比較して有意差は認められなかった.以上から,水域環境改善が期待される鉄材の利用においては,使用する鉄材の形態について適切に選定する重要性が示された. 
 他方,アサリの生存率については,Scheffe's F test による結果からは,無添加の対照区と比較して, 3 種の鉄材を添加した系において統計的な有意差は認められなかった.

キーワード:鉄材,シノブハネエラスピオ,アサリ,暴露実験

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