研究について

研究成果

人工構造物を用いた新たな生息場の創造によるサンゴ礁生態系の再生

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 64-2-1 2025年06月
執筆者 棚谷 灯子、桑江 朝比呂
所属 沿岸環境研究領域 沿岸環境研究グループ
要旨  サンゴは熱帯・亜熱帯の海洋生態系の基盤生物であり,サンゴ礁生態系が供給する生態系サービスの経済的価値はあらゆる生態系の中で最も高いと推定される.しかし,近年の気候変動に伴う高水温により大規模なサンゴの白化が起こり,生態系の劣化が深刻化している.このため従来の保全策にとどまらず,生態系への積極的な介入によってサンゴ礁生態系の再生を試みる動きが世界各地で始まっている.本研究では,那覇港におけるサンゴの生息状況とこれまでに実施された生態系への介入の効果を調査し,人工構造物を用いた新たな生息場の創造が気候変動に対するサンゴ礁生態系の再生手段として有効かどうかを検証した.那覇港における過去 30 年分のサンゴに関する調査報告書から,防波堤と周囲の天然礁におけるサンゴの分布状況と周辺の環境条件等に関する過去データを抽出し整理した.さらにサンゴの着生に配慮した生物共生型防波堤において,サンゴ等の生物の生息状況と周囲の環境条件を調査した.これらのデータを用いて,サンゴの生育に適する環境条件,サンゴの生育に配慮した防波堤構造の効果,防波堤と天然礁のサンゴの着生状況を比較した.防波堤上でサンゴは浅い水深帯,適度に傾いた基盤上,光量が高い場所,目地近傍で多く分布していた.サンゴの生育に配慮した生物共生型防波堤では,浅場面積の拡大,防波堤部材の表面加工,目地幅の拡大の効果により通常の防波堤に比べて費用対サンゴ着生効果が約 10%増加した.生物共生型防波堤では人工タイドプール(ATP)の設置によるサンゴ面積の増加が最も大きく,サンゴ面積の増加分の約 40%を占めた.ATP の費用対サンゴ着生効果は,天然のサンゴ礁における移植等によるサンゴ生息場再生の同効果に匹敵していることから,ATP はサンゴ生息場の創出方法として有効であると考えられる.1998 年の大規模白化以降,防波堤のサンゴ被度は天然礁よりも高く,防波堤は周囲の天然礁で失われた生態系機能が維持していた.防波堤のサンゴ被度の回復速度(~6 年で被度 20–40%)は,近年のサンゴの大規模白化の周期(~6 年)と同程度であることから,防波堤では白化が繰り返し起こるとしてもサンゴ被度が回復し群集を維持しうることが示唆された. キーワード:サンゴ礁生態系,生息場の再生,グリーンインフラ,生物共生型港湾構造物,気候変動対策
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