研究について

研究成果

傾度風平衡に基づく台風気象場の補正方法の提案

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 63-2-1 2024年06月
執筆者 岩本匠夢、髙川智博、柴山知也、Miguel Esteban、Martin Mäll
所属 沿岸水工研究領域 津波高潮研究グループ
要旨

 本報告はCoastal Engineering Journalで出版された論文「A proposal of a semi-empirical method for modifying the atmospheric pressure and wind fields of tropical cyclones」の日本語訳に解説を加えたものである.
 高潮による浸水被害を防ぐために,港湾構造物では高潮による潮位変化を考慮した設計条件を想定する.そのために,過去に観測された潮位偏差のほか,高潮の数値モデルによる推算値を用いることがある.この方法では台風の風・気圧場を外力条件としてモデルに入力しており,近年は数値予報モデルのものを用いることが多い.これは地形の影響による風場の変形といった効果を数値予報モデルで考慮でき,従来の経験的台風モデルよりも現実的な外力条件が得られることが期待されるためである.しかしながら,最新の数値予報モデルであっても台風の勢力(中心気圧など)を必ずしも精度良く再現できるわけではない.こうした状況から,高潮の数値モデルの外力条件を高精度化するための方法を検討する必要がある.
 本研究では,台風の平面的な力の釣り合い関係(傾度風平衡)に基づき,気象モデルの風・気圧場を補正する新たな手法を開発した.2019年台風15号によって東京湾で発生した高潮を対象に,経験的台風モデルと領域気象モデルWRFで台風の気象場をそれぞれ設けるとともに,WRFを従来のブレンド法と直接修正法,さらに本研究の提案手法で別個に補正した.こうして得られた計5通りの気象外力のもとで高潮を推算し,観測された潮位偏差との比較を通じて,台風の風・気圧場の補正が高潮の推算精度に及ぼす影響を検討した.その結果,提案手法によって総じて高潮の推算精度が向上し,気圧場を補正しない直接修正法の性能を上回ること,ならびに海水の吹き寄せに寄与する南西風が卓越した台風上陸時では,ブレンド法と比べて提案手法による改善が顕著であることがわかった.ブレンド法では,経験的台風モデルを合成したことで海上風が北西風に置き換わった一方,提案手法では元の南西風を保つことができたことによると考えられる.

キーワード:東京湾,高潮,傾度風平衡,領域気象モデルWRF,海洋モデルROMS

全文 REPORT63-2-1本文(PDF/5,541KB)
REPORT63-2表紙・奥付(PDF/348KB)