研究について

研究成果

伊勢湾シミュレータに実装した領域沿岸データ同化法による通年のデータ同化実験: 沿岸・河口域における適切なアンサンブルを作成するための境界条件の摂動

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 61-1-1 2022年06月
執筆者 松崎 義孝、井上 徹教
所属 海洋環境制御システム研究領域 海洋汚染防除研究グループ
要旨

 本論文はJournal of Geophysical Research: Oceansで出版された論文「Perturbation of Boundary Conditions to Create Appropriate Ensembles for Regional Data Assimilation in Coastal Estuary Modeling」の日本語訳に、詳細な解説を加えたものである。伊勢湾での実際の観測データおよび伊勢湾シミュレータを使用して、アンサンブルカルマンフィルタによる沿岸河口の領域データ同化(領域沿岸データ同化)を実行し、この方法の適用性とロバスト性を調べる。また、摂動を付加する境界条件と、水温と塩分のデータ同化結果との関係を分析し、3つの境界条件(大気境界条件、側方境界条件(あるいは開境界条件、ここでは伊勢湾と太平洋との接続)、河川境界条件)に摂動を付加することによってアンサンブルを作成する方法を提案する。同化する観測値は伊勢湾モニタリングポストの水温と塩分とし、1日1回同化した。提案した同化方法によって、年間を通じた水温と塩分の不自然な変動がない、安定したデータ同化結果が得られた。さらに、3つの境界条件に摂動を適用してもFilter divergenceは発生せず、本手法の適用性とロバスト性が示された。つまり、3つの境界条件に摂動を適用した場合、ensemble spreadは同化に適した計算結果同士の違いを維持した。感度実験によると、気温と風速の両方の大気境界条件に摂動を付加した際に、特に表層付近で水温のensemble spreadが増加した。検討した境界条件の摂動のうち、風速は塩分のensemble spreadの大きさに最も大きな影響を及ぼし、その優位性は場所によって異なった。側方境界条件の摂動は、湾口近くのすべての水深で水温と塩分のensemble spreadを増加させ、観測は効果的に同化された。河川境界条件の摂動は、河口近くの水温と塩分の同化に寄与した。

キーワード:アンサンブルカルマンフィルタ,沿岸・河口域,アンサンブルの生成,伊勢湾,摂動,境界条件

全文 REPORT61-1-1(PDF/4,633KB)