研究について

研究成果

干潟及び砂浜における沿岸底生生態-地盤環境動態の統合評価予測技術の開発と適用

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 59-3-2 2020年12月
執筆者 梁 順普・佐々 真志・工代 健太・高田 康平
所属 地盤研究領域 動土質研究グループ
要旨

 本報告は、筆者らが開拓・推進してきている生態地盤学の展開によって得られた知見、即ち、干潟及び砂浜における多種多様な生物生態に果たす地盤環境動態の役割に基づき、沿岸環境の整備、維持管理及び沿岸生態系の保全・再生に活用しうる沿岸底生生態-地盤環境動態の統合評価予測技術の開発を目的とし、国内外の現地調査、室内試験・分析及び数値解析を実施した。得られた主な知見は次のとおりである。
 1)干潟及び砂浜底生生物の住活動の限界場の相互関係を統一的に表す生物住環境診断チャートを新たに拡張した。当該チャートに基づくサクションを核とした地盤環境動態と生物種の多様性の間の密接な関係は、複数の造成干潟における現地観測事実とよく整合していることを明らかにした。
 2)砂浜と潮差の違い及び潮位の変動に関わらず、砂浜潮間帯に生息する小型底生端脚・等脚類の生物分布には共通的な地盤環境適合場が存在することを明らかにした。
 3)高波・台風イベントによる砂浜及び干潟地形変化に伴う底生生物分布の変化は、サクションを核とした地盤環境適合場と密接な関係があり、各種底生生物に固有の地盤環境適合場に従って多様な生物分布変化が発現していることを明らかにした。
 4)拡充・発展した生物住環境診断チャートと飽和・不飽和浸透流解析法を組み合わせた沿岸底生生態-地盤環境動態統合評価予測プラットフォームを構築し、現地海浜・干潟への適用を行った。
その結果、当該プラットフォームは台風・高波イベントに伴う干潟及び砂浜地形の大変化に伴う各種の底生生物分布域の移動・拡大を整合的に予測・再現することを明らかにし、その有効性を包括的に実証した。当該プラットフォームは、干潟・砂浜を含む沿岸環境の整備・維持管理及び地球規模の気候変動に伴う沿岸地盤環境及び沿岸生態系の変化を定量的に評価・予測しうる基盤として有効に活用することが期待できる。

キーワード:干潟、砂浜、生物多様性、サクション、地盤環境動態、底生生物分布

全文 REPORT59-3-2(PDF/2,310KB)