研究について

研究成果

潜堤による港内波の制御に関する基礎的研究

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 59-1-2 2020年06月
執筆者 平山 克也、濱野 有貴、長沼 淳也
所属 海洋研究領域 波浪研究グループ
要旨

 地震・津波等により被災し水没した防波堤に残存する防波性能を把握することは,暫定利用する港湾の安全性や事前嵩上げの要否等を評価する上で極めて重要である.また,これと同様な水理特性を有する潜堤は水面付近の波力を直接受けずに波の分裂による伝達波の短周期化が期待されるため,特にうねりによる荷役障害が懸念される離島港湾などで新たな静穏度対策となり得る.
 そこで,本研究では,不透過の矩形潜堤及び透過・不透過の台形潜堤を対象として,様々な波浪条件に対する断面模型実験を系統的に行い,潜堤前後の波高・周期の変化に着目して不規則波の変形特性を把握した.また,代表的な波浪条件での直入射波,斜め波及び多方向波を対象として,不透過の矩形・台形潜堤による平面波浪変形実験を実施した.さらに,ブシネスクモデル(NOWT-PARI Ver5.2)を用いてこれらの断面・平面模型実験結果に対する再現計算を行い,その適用性について検証するとともに,離散的にしか得ることのできない潜堤周りの波浪変形実験結果を補完した.なお,急激な水深変化部を有する矩形潜堤周りの波浪変形をも安定に計算できるよう,本研究では合わせて「段差境界処理法」を新たに開発・導入した.加えて,鹿島港外港地区の現況港形及び想定した2種類の被災港形における港内静穏度解析を実施し,南防波堤先端付近の未消波区間のケーソンが沈下または消失した場合に残存する波の遮蔽効果及び岸壁での荷役稼働率について検討した.
 これらの結果,不透過潜堤では,天端上水深が換算沖波波高の2倍程度となる砕波直前の非砕波時に不規則波の有義波周期が潜堤背後で最も顕著に短周期化することが確認された.また,潜堤背後の平面波浪場では波の収れんによる局所的な波高増大が生じるものの,矩形潜堤や多方向波ではこの傾向が弱まることが,段差境界処理法を用いた数値計算の再現性とともに確認された.さらに,沈下ケーソンは潜堤として機能し,波の分裂により背後の比較的広い範囲で伝達波の周期が約80%に短周期化するとともに,ケーソンが完全に消失すると想定した場合に比べ荷役稼働率が10%以上高くなることが確認された.

キーワード:潜堤,周期変化,分裂,収れん,段差境界,ブシネスクモデル,港内静穏度

全文