研究について

研究成果

浅海域における海水中二酸化炭素分圧の観測と 統計解析モデルの適用

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 59-1-1 2020年06月
執筆者 田多 一史、所 立樹、渡辺 謙太、茂木 博匡、桑江 朝比呂
所属 沿岸環境研究領域 沿岸環境研究グループ
要旨

 海洋生物によって取り込まれる炭素「ブルーカーボン」は,その約8 割が浅海域の生態系内に貯 留される.一方で,浅海域は環境条件や生物活動が時空間的に大きく変化するため,海水中二酸化 炭素(CO2)分圧は短期的に変動しやすい.したがって,浅海域はCO2 の吸収源にも放出源にもな りうる.一方で,国内の浅海域において海水中CO2 分圧は十分に計測されていないため,その包括 的な解析や予測手法も確立されていない.また海水中CO2 分圧の変動は,複雑で多様な生物化学的 過程にも規定されることから,海水中CO2 分圧の動態を説明するためには統計解析モデルを適用し て主要な環境要因を抽出する必要がある.
  そこで本研究においては,国内の様々な浅海域(亜寒帯~温帯~亜熱帯の海草場,干潟,サンゴ 礁)において,海水中CO2 分圧とその環境要因の現地観測(2010 年~2015 年)を実施するとともに, 得られた観測データに統計解析を適用することによって,海水中CO2 分圧に影響を与える重要な環 境要因を抽出し,現況を推定することを目的とした.
  海水中CO2 分圧と関連する環境要因の観測データに対して一般化線形モデルを適用し,海水中 CO2 分圧の現況推定モデルを構築した.また,全データセットに対してパス解析を適用し,因果関 係を検討した.その結果,大気-海水間CO2 フラックスは,主に(1)風速,(2)流入負荷,そして (3)生物過程から影響を受けることが分かった.特に,海水中CO2 分圧は生物生産(光合成,呼吸・ 分解)の指標(ΔDIC)や石灰化の指標(ΔTA)との関係性が強く,呼吸・分解や石灰化により海水 中CO2 分圧を高め,光合成により海水中CO2 分圧を低下させることが主要な要因と示唆された.
  陸と海の境界条件を適切に設定することにより,物理過程や生物過程による影響の把握が可能な 浅海域においては,本研究で開発されたモデルを活用することにより,海水中CO2 分圧の現況推定 が可能となる.また,CO2 の吸収源対策として浅海生態系を保全・再生・造成する際のCO2 吸収能 力を高める計画・設計に対しても,本研究成果の貢献が期待される.

キーワード: ブルーカーボン,CO2 吸収,海草場,干潟,サンゴ礁

全文 REPORT59-1-1(PDF/7,675KB)