研究について

研究成果

新たな魚類生態系モデルによる低次生態系と漁獲量の解析

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1368 2020年03月
執筆者 井上 徹教・小室 隆
所属 海洋情報・津波研究領域 海洋環境情報研究グループ
要旨

 日本国内の東京湾や伊勢湾などの内湾では1950-1970年代に内湾に流入する河川流域内において、産業の発展や人口増加により、多量の栄養塩が流入し、富栄養化が進行した。その後総量規制により一定の成果は見られたが、人口が集中している東京湾、伊勢湾、大阪湾では環境基準値を達成するには至っておらず、依然としてCODが高い状態で推移している。
 一方近年では、貧酸素水塊の発生や貧栄養化などにより、内湾における漁獲量の低下が問題視されている。漁獲量の減少は富栄養化や貧酸素水塊の発生などが予測されるが、根本的な原因の解明には至っていない。原因を解明するためには、内湾全域を対象とした現地観測が必須となるが、内湾全域を網羅するような調査は予算・人員・期間が限られるため非現実的である。 そこで、内湾数カ所における現地調査データを組み込んだシミュレーションモデルを使用することで内湾全域における環境変動を再現・予測することが可能となる。本研究においては低次生態系モデルと流動モデルをベースとした伊勢湾シミュレーターに組み込むことが可能な魚類生態系モデルを開発することを目的とした。
  本研究の結果、魚類生態系モデルが伊勢湾シミュレーター内で動作することを確認した。本モデルは魚類の動態・資源量予測のみならず、同時に内湾環境を再現することができる。伊勢湾内のカタクチイワシを対象にした計算結果からは、4月の産卵期には産卵場所に集まる行動を見せ、夏季には湾中央部で発生した貧酸素水塊発生から逃れるような行動が再現された。また、伊勢湾内で漁獲された魚種の漁獲量データと計算結果を比較した結果、種によって異なるものの、比較的良い再現性を持った種もあった。このことからも計算精度を高める必要があるため、パラメータチューニングシステムを用いて計算精度の向上を目指す。また、現時点においてモデルに使用している魚類データは漁獲量だけのため、今後は魚探データや種構成を解明できる環境DNAを用いてデータの蓄積を図っていく。

キーワード:魚類生態系モデル、伊勢湾シミュレーター、内湾、漁業資源

全文 TECHNICALNOTE1368(PDF/4,902KB)