研究について

研究成果

疑似点震源モデルによる強震動シミュレーションのスラブ内地震への適用

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 58-1-2 2019年08月
執筆者 野津厚、長坂陽介
所属 地震防災研究領域 地震動研究グループ
要旨

 本研究の対象とするスラブ内地震は沈み込む海洋プレートの内部で発生する地震であり、内陸地殻内地震やプレート境界地震と異なるタイプの地震である。近年、首都直下での大規模なスラブ内地震の発生が懸念されるなど、スラブ内地震に対する強震動予測の重要性が高まっている。
 現在、実用的な強震動シミュレーションのための震源モデルとしては、断層面上に矩形のアスペリティを置いた特性化震源モデルが用いられることが多いのに対し、著者らはこれを大幅に単純化した疑似点震源モデルを提案している。疑似点震源モデルでは、強震動を生成する1つまたは複数のサブイベントが断層面上にあると考える。そして、各々のサブイベントに対し、その内部におけるすべりの時空間分布を詳細にはモデル化せず、各々のサブイベントが生成する震源スペクトルのみをモデル化する。疑似点震源モデルは、従来の特性化震源モデルと比較して大幅にパラメタ数が少ないという特徴を有しており、これが実務に活用されるようになれば、実務における負担の軽減に寄与すると考えられる。
 疑似点震源モデルは、これまでプレート境界地震である東北地方太平洋沖地震などへの適用性が確認されているが、スラブ内地震に対しては一部の地震を除き適用性の確認がなされていなかった。そこで本研究では、近年わが国周辺で発生し強震記録も得られている6つの大規模なスラブ内地震を対象に、実際に疑似点震源モデルを構築し、それによる強震動の再現性を検討した。
 検討の結果、いずれの地震に対しても、震源パラメタの設定が適切であれば、疑似点震源モデルにより震源周辺の強震動を概ね良好に再現できることを確認した。スラブ内地震の観測記録は、震源での破壊の影響が直接的に表れた記録から地盤の応答の影響を強く受けた記録まで多種多様であるが、それらを疑似点震源モデルという一つの枠組みの下で説明できることがわかった。個々の地震の再現に用いた震源パラメタと地震の規模との関係を検討したところ、スラブ内地震に関する既往の研究と整合的な結果が得られた。

キーワード:スラブ内地震、疑似点震源モデル、強震動シミュレーション、オメガスクエアモデル

全文 REPORT58-1-2(PDF/6,445KB)