研究について

研究成果

沿岸植生域における有機炭素貯留速度の規定要因

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 57-4-1 2019年03月
執筆者 渡辺謙太、所立樹、田多一史、門谷茂、桑江朝比呂
所属 沿岸環境研究領域 沿岸環境研究グループ
要旨

 有機炭素貯留や大気中二酸化炭素の吸収は、海草藻場や塩性湿地等の沿岸植生域が有する重要な生態系機能である。そのため、沿岸植生域の造成・再生・保全は気候変動の緩和を目指した吸収源対策として国内外で注目を集めている。沿岸植生域の吸収源としての機能においては、堆積物中への有機炭素貯留が重要な過程である。これまでに、沿岸植生域の有機炭素貯留量を規定する様々な要因について研究が行われている。しかしながら、有機炭素貯留速度の規定要因について、時空間的な堆積環境の変化を検討した事例は限られている。そこで本研究では北海道の潟湖をモデルサイトとし、現場で採取した堆積物コアを地質学・生物地球化学的に分析することで、有機炭素貯留速度を規定する要因を抽出することを目的とした。沿岸植生域において堆積環境の時空間変化を詳細に捉えるために、同位体を用いた起源別有機炭素貯留速度推定法を検討した。解析の結果、相対的海水準、土砂供給、静穏性、植生の変化が有機炭素貯留速度を規定していることが分かった。堆積環境や植生の変化は地殻変動及び気候変動に起因する相対的海水準の変動によって生じていることが示された。特に相対的海水準が上昇していた期間は土砂堆積速度が増加し、これによって有機炭素貯留速度も大きかった。本研究の成果は、吸収源として沿岸植生域を造成・再生・保全する際に、有機炭素貯留機能を高める計画・設計の一助になると考えられる。また、将来の気候変動による海水準上昇が有機炭素貯留速度に与える影響の予測にも役立つ知見が得られた。

キーワード:ブルーカーボン、海草藻場、塩性湿地、炭素貯留、相対的海水準、同位体分析

全文 REPORT57-4-1(PDF/4,208KB)