研究について

研究成果

サンゴ礁生態系による炭酸塩地盤形成に関する現地調査と解析:離島における低潮線保全

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 57-2-1 2018年06月
執筆者 棚谷灯子、所立樹、渡部要一、桑江朝比呂
所属 沿岸環境研究領域 沿岸環境研究グループ
要旨

 熱帯亜熱帯域沿岸ではサンゴや有孔虫等の石灰化生物やその死骸が積み重なり炭酸塩地盤が作られる。とりわけ沖ノ鳥島や南鳥島においては排他的経済水域の基点となる低潮線がサンゴ礁であり、石灰化生物による炭酸塩地盤形成速度やその規定要因を把握することが国土保全上重要である。健全なサンゴ礁は海面上昇に追いついて成長するポテンシャルを有するが、気候変動等によるストレスはサンゴ等の石灰化生物にとって脅威となっている。本研究では遠隔離島のモデルサイトにおいて2つの手法(生物による石灰化・侵食に基づく推定方法と水質変化に基づく推定方法)で炭酸塩地盤形成速度(G)を推定し、その規定要因を考察することを目的とした。Gの推定にあたっては、調査地点の地形を正確に把握することが重要であるため、新たな手法として、ドローンによる空撮画像を用いて、調査地点のサンゴ礁特有の複雑な地形を簡便に精度良く求めることを試みた。
 ドローンによる空撮画像を用いて、調査地点の地形を簡便かつ精度よく推定でき、Gを正確に推定することに役立った。Gはサンゴの種類、光量および水温に強く規定されており、石灰化速度の大きいサンゴの種が多く、サンゴ被度が大きく、強い光量、最適水温付近で最大化した。炭酸系の時間変化が大きい場所において、異なる季節にまたがって連続的にサンプリングを行うことで、現場においてGの最適水温を推定することに成功し、モデルサイトは周囲のサンゴ礁よりもGの最適水温が高いことを示した。生物による石灰化・侵食に基づくGは水質変化に基づくGより大きくなった正確なGの推定に向けては、炭酸塩地盤の溶解を考慮すること、現場において主要なサンゴの石灰化速度を測定すること、Gに影響を与える環境要因の時空間変動を考慮することが重要であることを示した。2つの手法で推定したGは調査地域の相対的海面上昇速度を上回っており、モデルサイトにおいて、サンゴ礁生態系による炭酸塩地盤形成が海面上昇に追いついて国土保全機能を維持するポテンシャルを持つことを示唆した。

キーワード:炭酸塩地盤形成、遠隔離島、サンゴ礁生態系、炭酸系

全文 REPORT57-2-1(PDF/3,189KB)