研究について

研究成果

2016年熊本地震の前震と本震の震源過程の推定と特性化震源モデル

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 57-1-1 2018年03月
執筆者 野津厚、長坂陽介
所属 地震防災研究領域 地震動研究グループ
要旨

 2016年熊本地震では震源近傍の益城町で前震と本震の2回にわたり震度7が観測され、木造建物の全壊率が50%を超える地区もみられた。このような強い地震動がどのような震源過程のもとで生成されたかを明らかにすることは重要である。また、震源付近で強震記録の得られていない港湾や空港での地震動の事後推定に用いることのできる簡便な震源モデルを作成することも必要である。そこで、本研究では、震源近傍で得られた強震記録に対して波形インバージョンを適用し、前震と本震の震源過程の推定を行った。また、震源過程の推定結果に基づき、地震動の事後推定に用いることのできる特性化震源モデルの作成を行った。  
 まず、本震の震源過程については、破壊開始点よりも15kmほど北東側にすべり量とすべり速度の大きい領域(アスペリティ)が存在していたと考えられる。破壊はまずは深部に進み、その後、向きを変えて浅部に向かいアスペリティを横切ったと推定される。破壊開始点と益城町を結ぶ線上ではすべり量、すべり速度とも小さかったと推定される。すなわち、forward directivityの影響によって益城町の大振幅地震動が生成されたとは考えにくい。一方、前震については、破壊開始点より3kmほど北東側の浅い位置にすべり量とすべり速度の大きい箇所があったと推定される。この場合、益城町の大振幅地震動はforward directivityによって生成されたと解釈できる。前震と本震のいずれに対しても、波形インバージョン結果に基づいて特性化震源モデルを構築した。その結果、震源近傍の多くの地点で地震動を精度良く再現できる震源モデルを構築することができた。  
 2016年熊本地震では、熊本港と熊本空港において強震記録が得られていない。今回作成された特性化震源モデルは、これらの地点での地震動の事後推定に適していると考えられる。

キーワード:2016年熊本地震、震源過程、forward directivity、特性化震源モデル

全文 REPORT57-1-1(PDF/3,408KB)