研究について

研究成果

アマモ場の再生方法についての検討と今後の課題

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1332 2017年03月
執筆者 細川真也
所属 海洋情報・津波研究領域 海洋環境情報研究グループ
要旨

 沿岸域において重要な機能を有し、我が国に広く分布するアマモ場は、近年、地域によって増加している場所があるものの、この数十年では全国的に減少傾向にある。この過去に失われた機能の回復や今後失われる可能性がある機能の保全のため、全国各地でアマモ場の再生が実施されている。その再生方法に関して、およそ10 年前に幾つかの指針が提示されているが、近年、アマモの成長およびアマモ場の再生に関する新たな知見が明らかとなりつつある。
 本研究では、最新の知見を考慮に入れたアマモ場の再生方法の提示を目的として、アマモの成長およびアマモ場の再生についての知見の整理および資源投資の戦略に関する理論的考察を行った。アマモの成長に関して、文献収集により有性繁殖(種子の生産から発芽まで)と栄養繁殖(栄養株の分枝)に影響する環境因子を整理し、有性繁殖と栄養繁殖の両方へ影響する環境因子、もしくはどちらか片方のみへ影響する環境因子があることが明らかとなった。このことは、環境条件によって、両方の繁殖によって成立するアマモ場、もしくはどちらか片方の繁殖のみによって成立するアマモ場があることを意味している。また、アマモ場の再生の成功率と資源の投資方法についての理論的考察から、アマモ場の再生においては資源の投資方法にいくつかの戦略があることが示された。  
 アマモ場の再生においては、その成立様式を再生の目標として定めること、および、再生の成功確率に応じた資源投資の戦略を決めることが、造成場所の選定、造成場所における環境改善の程度の検討、および移植技術の選定において必要である。しかし、これまでの我が国のアマモ場再生において、これらが検討された事例はない。本論文では、アマモ場の成立様式ごとに想定される資源投資の戦略、造成場所の選定方法、造成場所における環境改善の検討方法、および移植技術の選定方法を示した。さらに、このようなアマモ場再生を効果的に行うための新たな課題を抽出した。今後の我が国のアマモ場再生の実務において、本論文で示したアマモ場の再生方法に関する検討方法の例が活用されることが期待される。

キーワード:アマモ場、再生、保全、造成場所、移植技術、資源投資の戦略

全文 TECHNICALNOTE1332(PDF/1,045KB)