研究について

研究成果

群集の補完性の解析手法の開発と既存の底生生物データへの適用

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1330 2016年12月
執筆者 細川真也
所属 海洋情報研究領域 海洋環境情報研究チーム
要旨

 固有の種が多くいる群集を有する場の複合により全体の種の豊富さ(種数)が高くなることを群集の補完性という。主に潮下帯によって構成されている港湾域においては、浅場等の潮間帯が群集の補完性を有していば、環境へ配慮した港湾事業として浅場修復等を行うことで、港湾の種の豊富さを向上させることができる。本研究では、種の豊富さに着目し、港湾において群集の補完性を有する場を見出すための評価手法を開発し、さらに、過去の事業によって得られた底生生物に関する既存のデータを活用してその手法を適用し、群集の補完性を有する場を見出すことを目的としている。  
 群集の補完性の評価においては、群集間で共通する種および各群集の固有の種の数を観測することが重要となる。しかし、観測種数は、調査の努力量(サンプリングエフォート)に依存する性質があり、サンプリングエフォートに対する観測種数の応答を理解せずに、群集間の種数の比較を行うことはできない。本研究では、群集の補完性の評価手法として、まず、各群集データについて希薄化曲線を描き、同じもしくは同等のサンプリングエフォートの下で群集間の比較可能性を確認した上で、群集間で共通する種および各群集の固有の種の数を解析する手順を提案した。さらに、同じもしくは同等のサンプリングエフォートの下で、これらの数を求める解析方法を開発した。この評価手法の妥当性について、実海域で得られた既存のデータを解析することで検証した。最後に、本研究で開発した手法を用い、尾道糸崎港の松永港区において過去の調査によって得られた既存データを用いて、潮下帯および潮間帯の群集構造の違いを評価した。この結果、潮間帯は潮下帯と群集を補完する関係にあり、港湾全体の種の豊富さを高めていることが明らかとなった。この結果は、主として潮下帯によって構成される港湾区域において、潮間帯を浅場修復として造成することは生物多様性の強化につながることを示唆している。  

キーワード:種の豊富さ、群集の補完性、観測種数、希薄化曲線、底生生物、既存データの活用

全文 TECHNICALNOTE1330(PDF/1,407KB)