研究について

研究成果

内湾域における波と流れによる底泥輸送および海底環境の動態に関する研究

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1320 2016年06月
執筆者 中川康之
所属 沿岸環境研究領域 沿岸土砂管理研究チーム
要旨

 内湾域沿岸部における効率的な海域利用や、適切な水域環境の保全を行っていくためには、海域特性の把握をふまえた環境変動の予測技術の向上が必要とされている。本研究で対象とする東京湾および有明海における底質環境の特徴として、シルト・粘土分を主体とする泥質物が湾内の広い範囲に堆積し、地形変化をはじめとする水域環境の動態を評価するうえでは、底泥の堆積特性や外力条件に応じた挙動特性の把握が重要となる。本研究では、これらの海域を対象とした現地観測を通じて、現地底泥の堆積分布のモニタリング手法の構築と、潮汐流や波浪外力による底泥移動や底層の水質変動に関する実態の把握、さらに現地観測を通じて明らかとなった底泥の堆積および挙動特性を反映させた底泥輸送のモデル化を試みた。
 堆積特性の把握においては、現地底泥のコアサンプル採取・分析や現地式密度計を新たに導入した底泥湿潤密度の現場計測を行い、底泥移動を評価するうえで重要となる底泥極表層における含水比等の鉛直分布構造について、各観測海域での特徴を明らかとした。特に東京湾深場においては、含水比300%以上の流動性の高い軟泥が20cm 程度堆積していることが確認された。一方、超音波式流速計を用いた流動場の計測と、懸濁物濃度や溶存酸素濃度等の同時計測による底面境界観測システムを導入した長期連続観測により、潮汐流や波浪等の作用外力に対する底泥移動や水質変動に関する応答特性の解明を試みた。各観測海域での物質輸送の評価に重要となる外力条件の特徴を配慮し、有明海では潮汐流による底泥の巻き上げに伴うSS(浮遊懸濁物)の輸送現象を、また東京湾奥部では高波浪時の波浪擾乱に伴う底泥挙動や水質変動に注目したデータ解析を行った。潮汐流によるSS 輸送現象に対しては、全水深を通じたSS 濃度の流速変動に対応する変動量の解析を基に、巻き上げ限界や巻き上げ速度等のモデル・パラメータの最適化を行い、懸濁物輸送量を適切にシミュレートするSS 輸送モデルを構築した。また、平常時には静穏な環境にある東京湾奥部においては、強風時に生じる風波擾乱の発達程度に応じて、底泥の顕著な移動や貧酸素期におけるDO(溶存酸素) 濃度の回復が生じることを示し、波浪外力が海底環境に及ぼす影響の実態を明らかとした。
 東京湾における記録的な高波浪イベント時の観測データからは、海底面直近での底泥輸送量の収支解析を通じて、一般的な底泥輸送モデルで考慮されている巻き上げ・沈降過程以外にも、泥層内で生じる泥の水平輸送過程が重要であることを示し、さらに泥層内の鉛直構造を反映させた泥輸送モデルを新たに導出した。また、本モデルの実海域シミュレーションへの応用を通じて、波浪外力の時間変動の確率的評価を導入することにより、底泥輸送量の再現性が向上することを明らかとした。

キーワード:内湾,底泥,潮汐流,波浪,底質輸送,海底環境

全文 TECHNICALNOTE1320(PDF/4,538KB)