研究について

研究成果

植生が浅海域の流動場にもたらす影響に関する現地調査と流動モデルによる数値解析

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 55-2-2 2016年06月
執筆者 茂木博匡、中川康之、渡辺謙太、所立樹、門谷茂、桑江朝比呂
所属 沿岸環境研究領域 沿岸環境研究チーム
要旨

 海草藻場等では、植生の存在が流動抵抗となって流動場に影響を及ぼすため、有機物輸送や沈降・埋没といった物質循環過程に影響を与える。植生が流動場に与える効果を考慮した上で、有機物埋没速度を定量化することは、植生のある沿岸域が有する気候変動緩和効果のより確実な評価へと繋がる。これまでに植生が流動に及ぼす影響に着目した研究は数多くあるが、実験水槽や現場での囲い込み実験など極めて狭領域なものであった。そこで本研究では、植生が広領域の流動場に与える影響を把握するため、既存の3D沿岸流動モデルに植生抵抗の効果を導入した新たな物理モデルを構築した。さらに、北海道東部に位置する浅く閉鎖性の強い汽水湖である風蓮湖(面積57.4 km2、平均水深1~2m)をモデル海域とし、湖面積の68%に広がる海草場域の有無を考慮したシナリオ計算の結果と観測値との比較により、湖全体の流動場に及ぼす植生の効果について検討した。
 その結果、植生によって外洋からの高塩分水の流入が抑制され、一方で河川から流入する淡水は湖奥部に滞留しやすくなり、両水塊の混合が弱まることが示された。粒子追跡手法を用いた解析では、植生によって湖内水と外洋水との海水交換率がおよそ34%低下することが示された。また、植生ありのケースでのシミュレーション結果では、現地で観測された結果と同様の鉛直方向にほぼ一様な流れの向きとなるのに対し、植生なしのケースでは表層と底層で逆向きの流れが生じており、植生の存在はエスチャリー鉛直循環流にも影響を及ぼすことが示唆された。さらに、植生域内では流速が70~89%減衰し、一方で非植生域では流速が増大することから、植生は流速の空間分布にも多大な影響を及ぼすことも示唆された。
 本研究における成果は、植生による有機物のトラップ効果を考慮した、内湾スケールの有機物埋没速度の定量化を可能とする。また、植生による波浪や流動エネルギーの減衰効果の評価や、流動・地形変化を踏まえた上で浚渫土砂やリサイクル材を用いた海草藻場再生における適地選定技術への貢献も期待できる。

キーワード:植生抵抗、流動場、流動モデル、数値シミュレーション

全文 REPORT55-2-2(PDF/3,728KB)