研究について

研究成果

波崎海岸における底質粒径の変動特性

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1317 2016年03月
執筆者 柳嶋 慎一
所属 沿岸環境研究領域 沿岸土砂管理研究チーム
要旨

 波崎海洋研究施設を中心とする茨城県波崎海岸において、地形変化と底質粒径変化に関する空間的な調査および外力に関する調査を1990 年から2015 年まで実施した。砂浜表面の空間的な試料と、コアサンプルによって鉛直的な試料を採取し、底質粒径の変動特性を、汀線付近、砕波帯内、沖合、後浜の4 つの領域に分け、地形変化および外力との関係で検討した。
  汀線付近の底質粒径の空間分布は、波の砕波状態によって3 つのステージに分類される。2006 年10 月までは、長周期波の遡上によるバームの侵食時(ステージI)と入射波の砕波形式の違いによる堆積時(ステージII)とが可逆的な変化を繰り返していた。ステージII において、バームが存在する範囲に底質の鉛直構造が形成されるが、バームが存在しない範囲には形成されない。しかし、2006 年10 月の異常波浪来襲以降、ステージII よりも波高の大きな巻波砕波が汀線付近で沿岸方向に連続し(ステージIII)、底質は、平面的にも鉛直底にも粗粒化した。汀線の変動は、2006 年10 月以前に比べると小さく、汀線位置は安定している。ところで、2007 年以降の底質の粗粒化は、波崎海岸だけの現象であり、鹿島港の北側海岸では生じていない。
  砕波帯内の底質粒径は、過去の(1986 年~1987 年)結果と変わっていない。砕波帯内のトラフ領域では、時化時にトラフ底面付近に大粒径砂が取り残され、静穏になるとその上方に小粒径砂が堆積し、底質の鉛直構造が形成される。砕波帯内に存在する大粒径からなる層は、最深包絡地形付近に存在すると考えられ、最深包絡地形よりも高い位置にトラフが形成された範囲の大粒径層は、2 層になる可能性がある。
  沖合の底質粒径の沿岸方向変化は少ないとともに、沖側ほど小粒径砂(0.14mm)がゆっくり堆積する事が多い。しかし、一時的なイベントによってやや粒径の粗い砂(0.18mm)が堆積することもあり、このやや粗い砂は、鹿島港建設時に海岸に拡散した浚渫土砂が沖合に堆積した可能性が高い。沖合のコア表面もしくは下層に存在する大粒径砂は、海水準が現在よりも低かった頃、波の砕波によってトラフ領域に取り残されたものと考えられる。
 風により前浜から後浜および砂丘背後に運ばれる砂は、2006 年以前は小粒径のみであったが、2007年以降前浜の砂が粗粒化したため中粒径砂以上も運ばれるようになった。風によって背後地に運ばれる飛砂の最大粒径は、飛砂が発生した間の最大風速に比例し変化する。そのため、飛砂が堆積した範囲には、底質の鉛直構造が形成される。後浜(前浜も含む)のコア下層に存在する大粒径砂は、海水準が現在よりも高かった頃に、波の砕波によってトラフ領域に取り残されたものと考えられる。

キーワード:底質粒径、粗粒化、地形変化、コアサンプル、飛砂、砕波、現地調査

全文 TECHNICALNOTE1317(PDF/4,557KB)