研究について

研究成果

波崎海岸における汀線の長期的前進傾向

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1316 2016年03月
執筆者 伴野雅之、栗山善昭、武若聡
所属 沿岸環境研究領域 沿岸土砂管理研究チーム
要旨

 茨城県波崎海岸の海浜地形は、過去に様々な人為的影響を受け、変化した。過去の波崎海岸における最も特徴的な人為的イベントは、1965 年から1977 年にかけて行われた土砂の海洋投入であり、鹿島港建設時に発生した約5000 万m3 もの土砂が波崎海岸北側に海洋投入された。また、波崎海岸の北側では鹿島港の整備が1960 年代より始められ、海岸の南側では波崎漁港の整備が1970 年代より始められた。 それに伴って、海岸南北には防波堤や護岸などの人工構造物が建設された。さらに、1980 年代後半から2000 年にかけて、海岸の南部にヘッドランドが建設された。このような人為的影響下における海浜地形の長期的な変化の実態を把握することは海岸工学上、非常に有用な資料となりうる。そこで本研究では、航空写真を用い、1961 年から2013 年までの波崎海岸全体の汀線変動の実態を把握し、その変動特性をEOF 解析によって整理し、その変動を引き起こした要因と変動過程について考察した。  その結果、波崎海岸では過去に長期的な汀線の前進傾向が生じていたことが明らかとなり、同時に北向きの沿岸漂砂による汀線の変動が生じていたことが示された。第一の前進傾向は、土砂の海洋投入直後の1969 年から1984 年に生じた海岸北部を中心とした汀線の前進であり、これは土砂の海洋投入により漂砂系内の土砂量が増加したことによるものと考えられた。第二の前進傾向は、上述の汀線の前進が一度収束してから約10 年が経過した1993 年以降の汀線の前進であり、1993 年から1996 年には海岸全域で生じ、1996 年以降は海岸南部を中心として生じた。この前進は主に沖から岸に土砂が移動したことによるものと考えられた。特に2002 年以降の汀線の前進はヘッドランドおよび波崎漁港西防波堤周辺で顕著であり、これは岸近くで卓越する北向きの沿岸漂砂がヘッドランドによって捕捉されたためであると考えられた。このことから、長期的な海浜地形変化において岸沖漂砂が大きく寄与する場合があることが示され、長期的な地形変化を予測する上で岸沖漂砂の影響を十分に考慮することが必要であると考えられた。

キーワード:汀線変化、航空写真、EOF解析、岸沖漂砂、ヘッドランド、海岸・港湾構造物

全文 TECHNICALNOTE1316(PDF/5,045KB)