研究について

研究成果

海水の圧縮性と地球の弾性を考慮した津波の分散解析

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 053-01 2014年03月
執筆者 高川智博
所属 アジア・太平洋沿岸防災研究センター アジア・太平洋沿岸防災研究センター
要旨  2010年チリ・マウレ地震や2011年東北地方太平洋沖地震で発生した大津波は、太平洋全域に伝播し、およそ1日かけて地球の裏側にまで到達した。その様子は太平洋全域の外洋に設置されたDARTブイによって捉えられ、高精度な観測波形が記録された。その結果、従来津波伝播の計算に多用されてきた数値モデルの計算に比べて、実際の津波の到達が顕著に遅いことが明らかになった。2010年チリ・マウレ地震の際には、気象庁が予測される津波の到達時間を発表したが、実際の到達が60分も遅かった地点もあった。避難行動に大きな影響を与えた例も報告されている。  本研究では、津波伝播遅延の原因として、海水の圧縮性と地球の弾性の影響を検討した。海水の圧縮性については、ポテンシャル理論を用いて独自にその遅延効果を導出した。また、これを変位-応力ベクトルに基づく多層弾性体の理論と連成し、一連の分散解析スキームとしてとりまとめた。得られた分散曲線には、通常の風波にみられる正分散と弾性床の影響による逆分散、そして波数依存性のない圧縮性による伝播速度の低減という3つの特徴がみられる。3つの効果について津波の波形に与える影響を行った。逆分散が生じる弾性床の場合には、隆起域のみからなる波源であっても伝播に伴い押し波に先行する引き波が発達するようになる、これを前駆反転波と呼ぶこととした。前駆反転波は2010年チリ津波や2011年東北津波の観測波形にも認められる。これは津波の波形が地球の弾性による逆分散の影響を受けていることを示す強い証拠である。  提案した分散解析スキームを地球内部モデル(PREM)に適用し、地球モデル上での津波の分散特性を定量的に示した。津波の第一波の到達時間を正確に予測することを目指し、得られた分散関係から最大波速を水深の関数として整理した。最大波速を用いた新しい津波伝播計算モデルを提案し、2010年チリ津波と2011年東北津波の観測波形を定量的に比較した。その結果第一波到達時間の推定バイアスが従来モデルでは1.1%であったのに対し、提案モデルでは0.10%に低減され、推定精度を1桁高めることに成功した。これは地球の裏側から伝播してくる津波であっても推定誤差5分以内の精度で予測できる精度である。提案した補正手法は既存の津波平面伝播計算モデルに容易に取り込むことが可能であり、津波の想定や予測等の実務計算への幅広い応用が期待される。
全文 /PDF/vol053-no01.pdf