研究について

研究成果

干潟・砂浜海岸の生物生態/地形動態に果たす地盤環境の役割-多種多様な生物住環境診断チャートと安定地形の最適設計-

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 052-04-01 2013年12月
執筆者 佐々真志、渡部要一、梁順普、桑江朝比呂
所属 地盤研究領域 動土質研究チーム
要旨  本報告は、水と地盤と生態を融合した新たな学際領域として、筆者らが先駆的に開拓・推進している生態地盤学の展開を通じて、干潟および砂浜海岸における多種多様な生物生態ならびに地形動態に果たす地盤環境の役割を体系的に解明し、対応する工学基盤・指針を提示することを目的としている。日本各地の現地観測・調査、各種の生態地盤実験、概念モデルおよび一連の解析・分析を通じて、得られた主な知見は次のようである。  1) 干潟・砂浜に生息する典型的な二枚貝種 (アサリとフジノハナガイ) を対象として、土砂環境動態に対する2つの新たな潜砂基準と潜砂適応の存在を見出し、その発現機構を解明した。そして、これらの定量的な基準が、稚貝から成貝にかけた二枚貝の空間分布ならびに行動・形状適応に果たす役割とその重要性について明らかにした。2) 巣穴底生生物は、巣穴発達のための最適・限界サクション場を探知する“生物センサ”を有し、地表サクションの空間勾配に基づいて、住活動に適した場を自ら選択して巣穴活動を行うことを明らかにした。3) サクションは、砂浜潮間帯の飽和・不飽和、緩密、硬さ軟らかさ等の多様な生物住環境の発現を支配していること、そして、異なる3種の小型甲殻類の生息限界域と高密度域の分布を統一的に規定しうることを明らかにした。4) 多様な生物住活動の適合土砂環境場と限界土砂環境場の両者が生物種ごとに存在することを世界で初めて明らかにした。そして、同適合場と限界場の生物種間の複雑な相互関係を浮き彫りにした生物住環境診断チャートを構築し、各地の干潟生物の生息分布と住み分けの実態が、同チャートときわめて良く整合していることを明らかにした。5) 筆者らが新たに見出した潮間帯砂州の動的安定原理を、浅場造成砂州において詳しく検証した結果、同原理に基づいて予測した安定地盤高において、砂州地形の自律安定性が見事に発現することを明らかにし、これに基づく浅場造成高・覆砂厚の最適設計を提示した。  以上の知見は、従来、困難であった多様な生物種に対応した生物住環境の評価・モニタリング・管理を実現可能とし、併せて提示した生物多様性と地形安定の両立を実現しうる工学指針は、今後の干潟・浅場造成事業において広く活用されることが期待される。
全文 /PDF/no052-04-01.pdf