研究について

研究成果

内湾河口周辺域における底質環境と底生生物群集の変動特性に関する研究

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1254 2012年09月
執筆者 有路隆一
所属 沿岸環境研究領域 沿岸土砂管理研究チーム
要旨 一般に、内湾河口周辺域は、河川からの淡水と湾内の海水が混じり合う環境にあり、さまざまな物理、化学、生物過程が相互に作用しあって成立している。また、潮汐、波浪などの外力を強く受ける場所であるとともに、出水イベント等の非定常な影響を直接受ける場であるため、環境変化には様々な時空間スケールの変動要因が含まれ複雑な環境構造を形成している。特に、底質環境は、干潟域を含む河口域周辺の地形や底質性状の変動、物質循環過程への寄与などを通じて、周辺水域の水質環境や生物環境にも大きな影響を及ぼす河口環境形成の基幹的なプロセスでありながら、その現象の複雑さ及びそれを把握するための現地調査の難しさからその実態は十分に把握されているとは言えず、河口域周辺の環境変動を把握する上で一種のボトルネックとなっている。  以上のような背景を踏まえて、本研究では、このような内湾-河川接合域として複雑な環境過程が生じ、東京国際空港新滑走路が建設された東京湾多摩川河口周辺域を対象として、底質環境の空間構造と時間的な変動特性の実態把握を行った。底質特性の検討に際しては、空間解像度や時間解像度が異なるいくつかの計測を組み合わせることにより把握を試みた。そして、環境変動を支配する重要な要素のひとつである底質環境と底生生物群集の時空間的な変動特性および両者の関係を明らかにするために、長期にわたり高頻度、高密度な時空間スケールのもと底質コアサンプリング手法を用い不攪乱採取を行ったこと、分類専門家による最新の分類体系に基づいた生物同定を行うなど、従来の手法によるものに比べて圧倒的に質の高い環境調査データを取得するための手法を検討、実施し、そのモニタリングデータをもとに解析検討を行った。  まず、長期にわたる現地調査結果をもとに、底質環境の時空間変動に注目した検討を行うことにより変動特性の把握を試みた。調査期間中に発生した出水と気象擾乱により、多摩川、東京湾では環境変化が起こり、多摩川沖では出水後に底質粒径の細粒化や含水比の急激な低下とその後の緩やかな回復を捉えることに成功した。さらに、多摩川河口域の干潟・浅場での出水による影響は、比較的短期間に限られ、むしろ、場としての環境特性としては季節変動が支配的であることを明らかにした。次に、これまでに実施した地形断面計測、河川流量、底質性状、水質・流動構造などの物理的特徴と底生生物群集の生息活動などの生態的特徴から総合的に検討を行い、夏季と冬季に見られる底質粒径等の明瞭な季節変化は、堆積物供給量などの違いによるものであることを示した。  さらに、底泥の時空間変動特性と鉛直分布特性について検討を行い、堆積過程を詳細に捉えることに成功した。定常的に2.5cm/年の時間スケールで新生堆積物が降り積もることにより生じる現象であることを詳細に示した。また、底質環境の長期的な変動が、底生生物の種構成ならびに現存量に与える影響について検討を行い、大出水後に見られた底生生物群集の多様度の全体的な増加と場の均一化は、底生生物の生息環境を一時的に改善したたであることを明らかにした。
全文 /PDF/no1254.pdf