研究について

研究成果

底層酸素供給に対する堆積物からのリン溶出の応答

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1237 2011年09月
執筆者 井上徹教、中村由行、清家泰、鮎川和泰、管原庄吾
所属 沿岸環境研究領域 上席研究官(海域環境解析担当)
要旨  汽水湖沼の浚渫窪地内の堆積物を対象として、室内実験および数値計算により酸素供給停止前後のリン溶出の短期的変動について検討を行った。室内実験結果から、窒素曝気においては顕著なリンの溶出が見られたのに対し、空気曝気では明らかなリン溶出抑制効果がみられ、酸素曝気では水中から堆積物へのリンの輸送(負の溶出速度)が認められた。この負の溶出速度は、堆積物表層が酸化的になることにより溶存態リンが粒子状物質に吸着し、間隙水中のリン濃度が減少したため生じたものであると考えられた。一方、空気曝気を行っていた系では窒素曝気に変更後1日以内に、酸素曝気を行っていた系では窒素曝気に変更後2日以内にリン溶出の極大値を示し、その後窒素曝気の系と同程度の溶出速度に落ち着いた。この一時的なリン溶出速度の増加は、堆積物表層に蓄積されたリンが還元状態になるに従って急激に回帰したことによるものであり、これらのリンの短期間での非定常的な動態については、堆積物中におけるリンの脱着と拡散に関する時間スケールで説明が可能であった。また本実験結果により、水酸化第二鉄からのリン脱着が重要な過程であることが示された。  水酸化第二鉄からのリン脱着を表現する修正を加えた数値モデルにより窒素曝気条件や空気曝気条件の実験結果を定量的に再現することが可能であったが、酸素曝気条件の再現性は定性的なものにとどまった。これは、数値計算には高酸素濃度化で特異的に起こる現象が定式化されておらず、酸素曝気による堆積物表層の酸化還元電位の上昇、窒素曝気変更後の酸化還元電位低下に要する時間を表現できていないためであると考えられる。  酸素供給は一時的にリンの溶出を抑制することが可能であるが、酸素供給停止後もその効果を継続させることは困難であることが示された。また、このような非定常的な変動が、現場観測データの解釈を難しくしている可能性が指摘された。
全文 /PDF/no1237.pdf