研究について

研究成果

港湾域における堆積物中の有害化学物質管理

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1219 2010年12月
執筆者 内藤了二
所属 海洋・水工部 沿岸環境研究チーム
要旨  港湾域は陸域からの様々な化学物質が堆積しやすい環境にあるとともに、港湾機能の維持・拡大のために堆積した土砂を浚渫する必要がある場である。そのため、港湾堆積物での有害化学物質管理においては、浚渫土砂に含有される化学物質濃度レベルに応じて処分地の構造や有効利用方法を決定する必要があることなど、浚渫を念頭に置いた高度な管理を必要とする。そこで本研究では、港湾域において有害化学物質を適切に管理するという目標に対して取り組まなければならない技術課題を抽出し、その解決策を示すことを目的とした。まず、堆積物中の有害化学物質管理上の課題として、最近の法改正に伴って、従来の溶出量をベースとした基準や法体系から含有量を中心としたそれに移行する必要があるという法制度上の課題、底生生物群集と堆積物環境の関係、有害化学物質の環境動態の把握という学術上基礎的な課題のほかに、モニタリングすべき有害化学物質の選定、有害化学物質測定上の問題、汚染対策工法としての覆砂の有効性の検証という実務上の課題が抽出された。これらの課題を解明するために、現地調査、室内実験、及びモデル計算を行った。  含有量をベースにした全国港湾域及び特定港湾での詳細な現地調査により、重金属類には米国のガイドライン値を超える地点が存在すること、重金属類とPAH類の汚染源の違いを反映してそれぞれの港湾内での分布にも違いが見られることを明らかにした。米国の底質ガイドライン値を基に重金属汚染のレベルを総合化した指標として特定重金属類汚染指標を提案し、重回帰分析の結果、本指標が大きくなるほど底生生物の種類数が小さくなることを明らかにした。環境動態を把握する上での基礎となる分配平衡関係に関して、PAH類を対象とした実験を行い、分配平衡に影響を与える因子として脱着実験での振とう時間、間隙水中の着色成分への可溶化などがあることを示した。また、港湾域を対象としたマスバランスモデルによる推定結果から、環数が多いPAH類ほど港内へ堆積し、長期に渡って堆積物中に残留することを明らかにした。実務上の課題に対して、モニタリングすべき有害化学物質として11物質の金属類とダイオキシン類、PCBを提案した。また、ダイオキシン類を対象として含有量と有機物含有量から平衡分配理論を用いて振とう溶出試験値を推定する方法の妥当性を議論した。振とう溶出試験値を不安定にしている要因として、ろ紙の種類によって通過する粒子数が異なり、粒子に吸着したダイオキシン類が測定値に大きな影響を及ぼすことを明らかにした。そのため、振とう溶出試験公定法において使用するろ紙をより詳細に規定する必要があることを提案した。さらに対策工法としての覆砂工法に着目したモデル解析を行った結果、覆砂による有害化学物質の溶出抑制は、覆砂厚を増加させることでより効果的になること、覆砂層の下部に有害化学物質拡散防止マットを用いることで、従来の覆砂と比べ溶出を効果的に抑制できることを明らかにした。以上の知見を基に、港湾事業者が行うことを想定した底質ガイドライン設定の考え方を示し、汚染対策の各段階について留意しなければならない一般的な内容を提案した。
全文 /PDF/no1219.pdf