研究について

研究成果

わが国の沿岸域環境で今後問題になるおそれのある残留性化学物質のスクリーニング:その方法論の整備

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1203 2009年09月
執筆者 小沼晋、小川文子、益永茂樹、中村由行
所属 海洋・水工部 海洋環境情報研究チーム
要旨  かつての激しい公害の時代を経て、我が国の環境は過去数十年で劇的に改善した。しかしながら、生物多様性が次第に損なわれていることや生物生産性が維持できていないことなどから判断すると、沿岸環境は未だに多くの問題を抱えているように思われる。これらの問題は、因果関係は明確ではないものの、化学物質汚染と何らかの関係がある可能性がある。その物質はこれまで良く知られてきた物質ではなく、まだあまり知られていない残留性化学物質(新規残留性化学物質)である可能性がある。沿岸生態系に対してリスクとなる化学物質がもし存在するのなら、多種多様な化学物質の中からこれを探索し、見つけだすことが必要であると考える。  この見地に立ち、本研究は、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法、昭和48年法律第117号)の第一種監視化学物質(2008年10月1日改正)を予備的な対象化学物質セットに設定した上でスクリーニング作業を実施し、今後沿岸域生態系に悪影響を及ぼす恐れのある新規残留性化学物質の候補を絞り込んだ。具体的には、まず製造・輸入量と利用用途の情報を用いてふるい分けしておき、毒性・濃縮性の実測値とモデル推定値を総合した暫定ランキングをベースに、製造・輸入量、分解性、底泥への分配性を加味した検討を実施した。モデル推定にあたっては、米国環境保護庁とSyracuse Research Corp. が開発したPBT Profiler(http://www.pbtprofiler.net/)を利用した。その結果、新規残留性化学物質の候補として、紫外線吸収剤、臭素系難燃剤、感圧紙用溶剤、加硫剤など数個の化合物をリストアップすることができた。それぞれの物質について既往の検討事例と環境リスク削減への取り組みを概観した。あわせて、この手法の現状での制限項目と、今後より幅広い化学物質を取り扱っていく際の可能性を整理した。
全文 /PDF/no1203.pdf