研究について

研究成果

内湾の高潮推算への台風ボーガスと局地気象モデルの適用性

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 046-03-03 2007年09月
執筆者 河合弘泰,川口浩二
所属 海洋・水工部 海洋水理・高潮研究室
要旨 高潮や高波を発生させる主要な外力は洋上の風である。その風を現地で観測するためには多大な費用や労力が必要であるため、観測地点は現在でも限られており、観測データのみから風の平面分布を正確に推定することは不可能に近い。したがって、台風の位置や中心気圧などの諸元をもとに経験則あるいは数値計算モデルによって海上風を推算することが不可欠である。しかしながら、これまで使われてきた経験的台風モデルやMASCON モデルでは、内湾の海上風を十分に再現できなかった。その一方で、近年では様々なスケールの気象現象を計算する数値計算モデルが開発され、台風ボーガスと局地気象モデルを用いた内湾の海上風の推算も試みられている。ただし、その検証事例は限られており、実務に導入するためにはもう少し詳しい検討が必要である。  そこで本研究では、台風0416号など近年の6つの台風を選び、2種類の経験的台風モデル、MASCONモデル、局地気象モデルMM5(気象庁RANALに台風ボーガスを埋め込んだ気象場を入力)、のそれぞれによって海面気圧や海上風を推算し、その風場の特徴や推算精度を調べた。さらに、これらの海面気圧と海上風を外力として、瀬戸内海の高潮偏差を推算し、その精度も検証した。その結果は以下の通りである。 ①局地気象モデルMM5 によって、経験的台風モデルやMASCON モデルよりも海上風を精度良く推算できる。また、局地気象モデルによる海上風を用いることで、高潮偏差の推算精度も向上する。 ②経験的台風モデルの間でも海上風の推算精度には差がある。傾度風の力の釣り合い式に台風の移動の効果を考慮し、風速の低減係数に超傾度風を考慮するモデルを用いると、陸地から離れたところでは局地気象モデルに近い風場が得られ、台風接近時の風速のピークの再現性も高まる。 ③MASCONモデルは、風上側と風下側を陸地で阻まれた海域で風速を過小に評価し、陸上地形を水平方向に過剰に避ける風場を与える傾向がある。以上のことから、高潮推算に用いる台風の海上風の推算手法として、台風ボーガスと局地気象モデルの有用性を示すことができた。
全文 /PDF/vol046-no03-03.pdf