研究について

研究成果

砂質干潟の生態土砂環境場に果たすサクションの役割-巣穴住活動/保水場の性能評価・設計指針-

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 045-04-04 2006年12月
執筆者 佐々真志,渡部要一
所属 地盤・構造部 土質研究チーム
要旨  本論文は、従来研究が進んでおらず未知の部分が多い干潟地盤内部の土砂環境動態を明らかにし、表層土砂に住む巣穴底生生物の住活動との関わりを解明して、砂質干潟における生態土砂環境場の評価・設計指針を提示することを目的としている。本研究では、特に、干潟土中の水分張力を表すサクションの動態とその果たす役割に着目している。用いた手法は、現地観測・調査、室内実験ならびに理論・概念モデルの連携である。以下に得られた主要な知見を記す。 1) 自然砂質干潟における干潟地盤内のサクションを核とした土砂物理環境の連動過程を捉えることに世界で初めて成功した。干出時の地表からの水分蒸発、サクション勾配による地中からの水分供給、土中塩分集積過程が連動した干潟土砂の保水機構を明らかにした。干潟と砂浜の保水動態が、空気侵入サクション値前後における間隙水移動の差異によって支配されていることを明らかにし、保水場に関わる定量的な評価・設計指針を提示した。 2) 潮汐による地下水位変動と密接に関連したサクション動態が、干潟土砂の間隙、剛性および表面せん断強度の顕著な時空間変化を引き起こす上で本質的な役割を果たしていることを明らかにした。サクションによる間隙状態の変化は土の繰返し弾塑性収縮の帰結であり、表面せん断応力が不在にも関わらず、干出時地下水位上のサクションの発達性状に強く依存して明瞭な地表形状変化をもたらすことを明らかにした。多様なサクション動態の効果が表面土砂の輸送過程に関わるフィードバックを経て岸沖干潟の総体的な地形変化に貢献しうる様式を示した。 3) 砂質干潟における典型的な巣穴底生生物であるコメツキガニを対象として、巣穴住活動がサクション動態と密接に関わっていることを明らかにした。特に、サクションによる実効粘着力の生成が巣穴住活動を可能としていることを明示した。様々な土砂環境を制御した一連の生物実験により、巣穴の発達を支配する臨界・最適・限界サクション条件と関連する土砂物理環境 条件の存在を見出した。巣穴活動の性能を整合的に説明する概念モデルを構築し、住活動の性能評価指標ならびに良好な住活動条件を創造するための許容地下水位の設計指針を提示した。
全文 /PDF/vol045-no04-04.pdf