研究について

研究成果

有機スズ化合物の港湾堆積物への吸着特性に関する実験

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 045-04-03 2006年12月
執筆者 中村由行,山﨑智弘,小沼晋,加賀山亨,益永茂樹
所属 海洋・水工部 沿岸環境領域
要旨  有機スズ化合物の一種のトリブチルスズ化合物(TBT)は1960年代半ばから1990 年代にかけて、主に船底や魚網などの防汚剤として用いられてきた。TBT による生物影響は、海産巻貝の一種であるイボニシのインポセックスが知られている。TBT は高疎水性かつ難分解性である。そのため過去に排出されたTBTは港湾堆積物に多く蓄積されている。国土交通省や環境省では、港湾堆積物に含まれるTBTの経年変化をモニタリング調査しており、国内の主要港湾で高濃度に分布している箇所を確認している。環境中のTBTの安全性を検討するためには、主要な貯蓄の場となっている港湾堆積物中の存在特性、特に粒子への吸着特性を把握することが重要である。TBTの粒子への吸着に関する既往研究では、主に珪砂やカオリナイトなどの無機鉱物を用いた実験が行われており、有機物を豊富に含んだ堆積物での知見はまだ少ない。また堆積物と水の分配係数Kd の値についても数オーダーの差異がある。  本研究では、主に有機物を豊富に含んだ港湾堆積物に対するTBTと分解産物であるジブチルスズ化合物(DBT)およびモノブチルスズ化合物(MBT)の吸着特性を把握することを目的とした。  吸着実験に使用した堆積物は、田子の浦港堆積物、水俣港堆積物、名古屋港堆積物、盤洲干潟砂、豊浦標準砂である。実験は、50 mL の共栓沈殿管に堆積物0.04~5.0 g-dry と超純水40 mL を入れ、pH・塩分を調整した後、TBT標準液、またはTBTとDBT、MBTを等量含んだ混合標準液を設定量添加し、室温・暗条件で20hr 振とうした。その後、遠心分離にて水と湿泥に分画し、それぞれを試料とした。分析定量は共にGC-ICP-MS によった。  変化させた実験条件は、曝露濃度、有機物量、温度、塩分、pH である。実験の結果、TBTの吸着に最も支配的なパラメータは有機物量であり、有機物種の構成を反映しているC/N 比により吸着能が異なることを指摘した。本室内実験において、TBTの堆積物-水の分配係数Kd とTOC 含有量の関係はMeadorの関係式で概ね表されるが、TOC含有量が大きな堆積物の場合やDBTが共存する場合は、同式より大きなKd となることを指摘した。またTBTのKd は温度にも影響を受けることを確認した。さらに、Kdに対する塩分やpH の影響は有機物が少ない堆積物では顕著であったが、有機物が豊富な堆積物では効果が僅かであった。
全文 /PDF/vol045-no04-03.pdf