研究について

研究成果

海水流動の3次元性を考慮した高潮・津波数値シミュレータSTOCの開発と津波解析への適用

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 044-02-05 2005年06月
執筆者 富田孝史、柿沼太郎
所属 津波防災研究センター 主席津波研究官
要旨  沿岸における海水流動の予測は、環境面のみならず、高潮や津波災害の防除・軽減という防災面からも欠かすことができない。高潮や津波は、一般的には海水を水平方向に大きく運動させるが、鉛直方向にはほとんど運動させない。このため、例えば、津波ハザードマップ作成等において沿岸に来襲する津波を推定する際には、平面 2次元数値モデルが実用に供されている。ところが、沿岸域の構造物近傍では、海水が構造物等の表面に沿って水平方向だけでなく鉛直方向にも大きく運動する。2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震に伴ったインド洋大津波の際には、沿岸の構造物を乗り越え陸上を遡上する津波の様子がビデオ撮影され、構造物の影響を受けながら流動する津波の複雑さが明白になった。さらに、木造、レンガ造、そして、コンクリート造の建物が津波により破壊され、津波の破壊力のすさまじさをまざまざと見せつけられた。沿岸の構造物が受ける津波力の評価も、地域の防災力を図るために重要である。  本研究では、構造物近傍や地形急変部において 3次元性を有する流体運動を評価するために、3次元的な流体運動が計算可能な高潮・津波数値シミュレータ STOC(Storm surge and Tsunami simulator in Oceans and Coastal areas)を開発した。STOC は、Reynolds 方程式を支配方程式とする数値モデルである。3次元数値モデルを用いた数値計算では、一般に、計算時間が長くかかり大きな記憶容量を必要とし、計算負荷が極めて大きくなる。例えば津波計算の場合、震源域から 3次元数値モデルを適用するのは、現在のコンピュータ能力では不経済である。そのため、STOC では、水深方向に領域を多層化し、各層において 3次元 Reynolds 方程式を 2次元化した準 3次元の多層モデルと 3次元モデルとを連成させることにより、計算負荷の軽減を図る。また、3次元数値モデルでは、流体の圧力を直接的に計算するので、構造物に作用する津波力等を動圧の効果も考慮して評価することが可能である。
全文 /PDF/vol044-no02-05.pdf