研究について

研究成果

内湾干潟海域における3次元凝集性土砂輸送およびそれに伴う地形変動のモデリング

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 044-01-01 2005年03月
執筆者 内山雄介
所属 海洋・水工部 漂砂研究室
要旨  代表的な3次元海洋流動モデルであるPrinceton Ocean Model(POM;Blumberg and Mellor,1983)に適用可能な冠水・干出スキームが著者によって開発され、米国サンフランシスコ湾の潮流シュミレーションに適用された(WD-POM;Uchiyama,2004)。WD-POMでは新たに拡張対数則が導入され、潮間帯周辺において水深が極めて浅くなった場合であっても、海底面境界層内外の流速分布構造、および底質再懸濁に対して重要な底面シアをより正確に再現することが可能となっている。サンフランシスコ湾は広大な潮間帯・干潟により沿岸部を囲まれた典型的な閉鎖性内湾であり、干出・冠水現象が湾内流動に対して重要な役割を果たしている。このような潮間帯域における底質輸送とそれに伴う地形変化の機構と実態にいては、海岸工学分野(例えば、Dyer,1986)だけでなく、海洋生物分野(例えばKuwae et al.,2003)においても注目されている。しかしながら,潮間帯域の底質輸送を精緻に再現する3次元モデルはこれまで提案されていなかった。そこで本研究では、WD-POMに適用可能な3次元凝集性土砂(cohesive sediment)輸送モデルおよび地形変化モデルを開発し、それらをサンフランシスコ湾に適用して湾内の底質移動、海底地形変動特性を検討する。  土砂輸送モデルは沈降速度を考慮した3次元の移流拡散方程式を基礎式とし、水塊のシアと凝集性土砂のフロック形成を考慮した沈降速度(Burban et al.,1990)、海底面における沈降堆積速度(Partheniades,1992)および再懸濁浸食速度(Krone,1962)の各サブモデルが含まれている。基礎方程式はWD-POMに適合するように3次元デカルト座標系から水平直交曲線座標系および鉛直σ座標系へと変換されている。海底地形変動モデルは底質の沈降、再懸濁を考慮した海底面における土砂の体積保存則に基づいており、底質の間隙率を通じて圧密沈下を考慮できるように定式化されている。  湾口部(Golden Gate西側)の開境界において、天文潮のみを与えて湾内の潮流分布およびそれに伴う土砂輸送と地形変化に関する計算を行った.本研究では潮流成分による土砂輸送の効果を検討するため、湾北東部のSacramento-San Joaquinデルタからの淡水流入や、海表面における風応力の作用(吹送流および風波)は考慮していない。モデルによる計算結果から、凝集性土砂の再懸濁は湾中央に形成された水深の深い水路部において卓越しており、下げ潮流によって潮間帯周辺を含む浅海域方向に土砂が輸送されて沈降するというメカニズムが卓越することが明らかとなった。これに対応して、二朔望周期(約28日間)における潮流による地形変化結果から、水路部では浸食が,潮間帯干潟では堆積が卓越していることが分かった。すなわち、潮間帯干潟海域は内湾全体の流動だけではなく土砂収支の観点からも非常に重要な役割を果たしており、潮流に対しては土砂の“シンク”として機能していることが示された。
全文 /PDF/vol044-no01-01.pdf