研究について

研究成果

地震動の多点同時観測に基づく地盤の直ひずみの算定手法の検証

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1080 2004年06月
執筆者 野津厚、菅野高弘
所属 地盤・構造部 構造振動研究室
要旨  埋設パイプラインや沈埋トンネルなど線状埋設構造物の耐震性を議論する際には、地表に沿った二点間の相対変位、または、地盤のひずみを評価することが重要である。本研究では、水平成層に近い地盤を念頭におき、地表の一点での地震動が与えられているとの前提で、波動伝播効果に起因する地盤の直ひずみを算定するための方法を検討した。地震波が複数の周波数成分から成ることを前提とすると、地盤の管軸方向の直ひずみε(ω)は、管軸方向の地動速度v(ω)と地震波の管軸方v向の位相速度c(ω)を用いて次式で表現される。  ε(ω)=v (ω)/ c(ω) (1) 提案法では式(1)のc(ω)としてラブ波基本モードとレイリー波基本モードの位相速度の小さい方を用いる。これは地盤の直ひずみに関して安全側の評価を与えることを意図したものである。一般に表面波の特性は場所毎の地下構造を反映して著しく異なるので、 c(ω)は地震動や微動のアレー観測結果に基づいて評価することが望ましい。提案法は水平成層に近い地盤を念頭においたものであるから、実地盤への適用性を検討することは重要である。そこで本研究では羽田空港新滑A走路のアレー観測記録に基づき提案法の検証を行うこととした。新A滑走路のアレーは、設置間隔が数100mの大アレーと設置間隔が数10mの小アレーから構成されている。このうち小アレーの記録を用い、隣同士の観測点における変位の差から地盤の直ひずみを求め、これを実測値とした。  一方、当該空港における表面波の位相速度(野津他、2002)と地表での速度波形から提案法により地盤の直ひずみを算定し、実測値と比較した。その結果、提案法は当初意図したとおり地盤の直ひずみに関して概ね安全側の評価を与えることが確認された。提案法は、位相速度の弾性波動論的な位置づけが明確なので、地震の震源特性・伝播経路特性・サイト特性などを考慮して物理的にあり得る地震動を想定するいわゆる強震動予測手法と組み合わせて用いることに適している。実際の地震動に含まれる複数の周波数成分を考慮できるという点も提案法の長所である。提案法は位相速度の周波数依存性を考慮するので一見複雑なように見えるが、FFTを使用できる環境さえ整っていれば特段の困難もなく実際の問題に適用できるので、今後の活用が期待される。
全文 /PDF/no1080.pdf