研究について

研究成果

盤洲干潟周辺海域における底生系と浮遊系のカップリングに関する研究

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 043-02-02 2004年06月
執筆者 中村由行、野村宗広、神尾光一郎
所属 海洋・水工部 沿岸生態研究室
要旨  近年、干潟や藻場といった浅場が海域の水質浄化に果たす役割に注目が集まり、干潟・藻場の再生が全国で行われている。しかしながら、干潟の浄化能についてはいまだに不明な点が多い。干潟特にその潮間帯は、干潟に伴う冠水・干出、あるいは日射量の変動など、一日の中でも環境条件の変動が激しいため、浄化能力を担う生物活性の変動も大きいと考えられるが、日間の環境変動の影響を考慮した現場水質の観測例はほとんど見られず、このことが浄化量の評価や物質循環の理解を妨げてきた理由の一つであると考えられる。  そこで、本研究では、まず盤州干潟周辺海域において、2回にわたる水質に関する集中観測を夏季に実施し、潮汐周期に伴う岸沖方向の水質分布の時空間的な変動を明らかにした。その結果、干潟から潮下帯において、クロロフィルa(Chl.a)は沖側で高く岸側で低いことが明らかになった。また、無機栄養塩については逆の分布となることが確認された。2潮汐周期あたりの干潟上の栄養塩収支を算出した結果、Chl.aは常に干潟内へ吸収される結果となった、一方、無機栄養塩については、正午前後に干出する大潮期では放出、水没する小潮期では吸収を示し、日射の有無と干出・冠水の組み合わせによって変動することが示唆された。さらに、同時期に実施した培養実験によって、無機栄養塩を豊富に含んだ干潟直上水は、沖合へ流出し植物プランクトンに取り込まれ再び干潟内へと吸収される可能性が示唆された。以上述べた岸沖方向の水質分布構造や物質循環の特性には、盤州干潟周辺海域に生息するベントス、特に二枚貝が重要な役割を果たしていると考えられる。  以上のことから、本研究では、植物プランクトン・デトライタス・無機帯窒素を変数とし、二枚貝の捕食および排泄を考慮した水平一次元生態系ボックスモデルを構築した。これを用いて、2001年8月大潮期の2潮汐間における岸沖方向の水質分布の時空間変動を再現することを試みた。試算結果は、観測結果の特性を概ね再現しており、干潟へのChl.aの吸収量は、二枚貝の捕食の効果によってある程度説明することができた。また計算結果は、二枚貝の捕食と同時に無機栄養塩の排泄、そして底泥からの溶出が沖合の一次生産を支えていることを示した。盤州干潟は、沖合からの懸濁物のシンクとして役割を果たすと同時に無機栄養塩のソースとして機能しており、沖合の一次生産を維持していることが示された。このことは、干潟から潮下帯を中心とした海域において、栄養塩の物質循環が1日程度の低い時間スケールで回転していることを意味し、自然の浄化作用が生物活動を通して有効に機能していることを示している。
全文 /PDF/vol043-no02-02.pdf