研究について

研究成果

木曽川及び長良川河口域における冬期の植物プランクトン変動機構の解析

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1066 2003年12月
執筆者 中村由行、栗木秀治
所属 海洋・水工部 沿岸生態研究室
要旨  内湾と河川の接点である河口部は海水と淡水が交わる場であり、潮汐や河川流量の影響を受け独特の流況や混合形態をとる事が知られている。また、塩分等の化学的な環境条件が急激に変化する場でもあり、これらの環境条件に適応した独特の生態系が形成されている。近年、我が国における河口域や汽水域では、冬期に渦鞭毛藻と見られる植物プランクトンのブルームがしばしば報告されるようになっている。特に長良川河口域周辺では、年間のクロロフィルaの観測値が冬期に最大となる場合が生じており、水質管理上の問題となっている。生態系モデル等により植物プランクトンの増殖予測が行われているが、その要因やメカニズムについては未知の部分が多い。  一方、長良川及び木曽川河口部周辺では、長良川河口堰の建設、運用に伴い水質等の常時観測を行うために水質自動監視装置が設置され、モニタリングデータが長年にわたり蓄積されている。そのうち、木曽川には河道内に大規模な人工構造物がなく、河口域の本質的な植物プランクトンの変動機構を把握出来ると考えられる。従って、本研究でははじめに、木曽川河口部近くに設置された観測装置から得られたモニタリングデータを使用し、河川流量が比較的安定している冬期の河口域におけるクロロフィルaの変動機構の解明を行った。時系列解析を行った結果、クロロフィルa濃度は主として塩化物イオン濃度に依存し、半日及び日周期の潮汐のほか、大潮・小潮周期の変動に応じても変動することが示された。さらに日射量にも依存する事が示唆された。  以上の結果を基に、塩化物イオン濃度、日射量、水温、栄養塩濃度の関数で表されるクロロフィルa予測モデルを構築し、ブルームの形成機構に関する解析を行った。モデル計算の結果は実測の日変動から大潮・小潮周期の変動特性をほぼ忠実に再現出来た。さらに、ブルームが中期にわたって継続した1997年、および間欠的なブルームしか生じなかった1998年の再現計算及び解析を行い、モデルがこれらの年による違いをよく再現するとともに、河川流量の差が原因でブルーム規模の大小が生じたことを示した。次に、長良川河口堰下流部についても同様の解析を行った。長良川下流域については、TN、TPに関するモニタリングデータがある事から、特に栄養塩の影響について解析を行った。TNとクロロフィルaの相関関係をもとに溶存無機態窒素(DIN)量を推定し、モデルに用いた。その結果、長良川においてもクロロフィルa濃度の変動機構がほぼ再現された。さらに、栄養塩の効果を取り込む事により、ブルーム後半の相対的なクロロフィルaの低下現象を説明する事が出来、モデルの再現性がより高められる事が確認された。
全文 /PDF/no1066.pdf