研究について

研究成果

バー型海岸における水理特性および地形特性

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1028 2002年09月
執筆者 栗山善昭
所属 海洋・水工部 漂砂研究室
要旨 砕波帯は、そこでの波や流れが激しく底質移動や地形変化が大きいことから海岸管理上重要な空間となっているとともに、物質循環や生態系の観点からは海・陸の接合領域としての役割を果たしている。砕波帯では、しばしば沿岸砂州(バー)が形成される。沿岸砂州が形成されている海岸(バー型海岸)では、沿岸砂州背後にトラフが存在し、そこで波が再生することにより、一様勾配海岸の場合とは大きく特性が異なる水理現象および地形変化が生じている。本研究では、波崎海洋研究施設(HORS)において長期間取得した現地観測データに基づく解析を行うとともに、その結果を反映させたいくつかの新たな数値シミュレーションモデルを開発することによって、バー型海岸での水理特性と地形変化特性を明らかにすることを試みた。  具体的には、HORSにおいて8年間にわたって継続取得した海浜地形断面データを基に、沿岸砂州の数年スケールでの移動特性、ならびにそれと底質移動との関係や、底質移動と外力との関係を検討した。その結果、波崎海岸の沿岸砂州は約1年周期で発生を繰り返し、発生後沖向きに移動すること、沿岸砂州は一方向(沖向き)に移動するのに対して各地点の岸沖漂砂は沖向き・岸向きに変動すること、さらに、沖向き漂砂は沿岸砂州の頂部付近で生じ、岸向き漂砂はトラフ領域で生じること、などが明らかとなった。  バー型海岸特有の現象である砕波後の波の再生を現地観測結果に基づいて検討したところ、波の再生条件がH(波高〉/h(水深〉≦0.35となることが明らかとなった。続いて、この条件を組み込んだ波浪変形計算モデルを開発し、波高と砕波率に関する計算値と現地での実測値を比較したところ、本モデルにより現地の沿岸砂州周辺の波高、砕波率を精度良く推定できることが明らかとなった。  沿岸砂州周辺の沿岸流に注目し、その岸沖分布の特性を52例の現地観測結果を基に検討した。その結果、観測された沿岸流の岸沖分布の85%において沿岸流速の極大値がバー頂部よりも岸側で生じていた。沿岸流速分布に関する従来のモデルでは、沿岸流速の極大値はバー頂部よりも沖側でしか生じ得ないことから、本研究で明らかにされたこのような沿岸流速分布の特徴は、従来のモデルで無視されている砕波に伴う付加的な運動量輸送に起因するものである可能性が高いことが示唆された。  そこで、砕波による付加的な運動量輸送メカニズムを組み込んだ戻り流れと沿岸流の岸沖分布に関するモデルを構築し、砂州頂部よりも岸側における沿岸流速の極大値の発生原因を本モデルを基に検討した。まず、沿岸砂州周辺の戻り流れの現地観測結果と計算値の比較によって、砕波による付加的な運動量のキャリブレーションを行い、それに基づいて、沿岸流の具体的な計算を行った。その結果、砕波による付加的な運動量輸送効果を含まない従来型のモデルによる計算結果がバー頂部より沖側でピークを持つ沿岸流速分布となるのに対して、本モデルによる計算結果はトラフでピークを持つ沿岸流速分布となり現地の沿岸流速分布の特徴を再現できた。このことから、砕波による付加的な運動量輸送が沿岸流速の極大値がバー頂部より岸側において生じる原因であることが確認された。
全文 /PDF/no1028.pdf