研究について

研究成果

砂質干潟の栄養塩循環に影響をおよぼす要因

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 041-01-03 2002年03月
執筆者 桑江朝比呂
所属 海洋・水工部 主任研究官
要旨  干潟に生息するバクテリアや微細藻類などの微生物による栄養塩除去機能を解明するため、砂質干潟における栄養塩循環を定量化し、その特性やメカニズムについて検討した。はじめに、底生バクテリアの機能の定量化に必要とされる細胞数と細胞体積の測定に関する方法を検討し、以下の結論を得た。(1)本研究で開発された二重染色法により、従来法よりも明瞭かつ客観的にバクテリアと他物質とを区別して測定することが可能となった。(2)バクテリアを底泥粒子から分散させるため、ホモジェナイザー・超音波洗浄器・超音波破砕器の3つの機器をを用いて処理効率を比較した結果、超音波破砕器がもっともすぐれていることがわかった。(3)小さなバクテリアほど分散に時間を要するため、細胞体積のサイズ分布 を把撮するためには、分散処理時間を長くした方がよいことがわかった。  次に、砂質干潟の冠水時における栄養塩循環について検討し、以下の結論 を得た。(1)夏季の暗条件におけるアンモニア腰窒素を除き、すべての栄養塩は季節や光条件にかかわらず干潟底泥によって除去された。(2)栄養塩の除去丑は光条件に大きく左右された。これは底泥表面に存在する微細藻類が明条件下で活発に栄養塩を取り込んだためと考えられた。(3)アンモニア憑窒素フラックスにおいてみられた季節性やサンプル間のばらつきといった時空間的変動には、アサリによるアンモニア態窒素の抑陛が大きく寄与していた。4)底生微細藻類により取り込まれた溶存無機窒素のうち、31%は直上水由来であった。 (5)底泥間隙水中の硝酸腰窒素が脱窒の主要な供給源であり、直上水由来の硝酸憑窒素の寄与は小さかった。  最後に、砂質干潟の干出時および冠水直後における栄養塩循環について検討し、以下の結論を得た。(1)干出時間が短く、地形勾配の破い干潟では、干潟底泥が干出した後も合水率の低下がみられなかった。したがって、間隙水位の変動によってもたらされる間隙水栄養塩の移流は無視できることがわかった。(2)底泥表層における硝酸態窒素およびリン酸恵リン漁度の急な勾配により、大きな下向きの拡散フラックスが発生し、底泥表層における栄養塩濃度の変化に大きく寄与していた。(3)底泥亜表層における脱窒や異化的アンモニア生成といった硝酸還元反応は、分子拡散によって底泥表層から供給される硝酸態窒素によって支えられていた。(4)干出後の時間経過に伴い、底泥亜表層における酸化還元環境が酸化的に変化した。これにより、硝酸忠窒素の生成が促進され、アンモニア態窒素の生成が抑制された。(5)冠水直後に、外力による乱流混合やバイオターベーションなどにより、底泥中の栄養塩量が激減した。以上のように、本研究によって、砂質干潟における栄養塩のストックおよびフローが冠水時および干出時の両相において初めて定量化され、その特性や主要なメカニズムが明らかとなった。
全文 /PDF/vol041-no01-03.pdf