研究について

研究成果

潮汐噴流の流れ特性に関する数値的研究

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 039-02-01 2000年06月
執筆者 朴鍾千、岡田知也、古川恵太、中山恵介、細川恭史
所属 海洋環境部 環境評価研究室
要旨  海域を小さな開口部を残すように防波堤で囲い込むと、潮汐運動に伴う海水の流動によって、開口部近傍での流れは噴流となる。このような造流堤(TJG)は前面海域における物質循環や移送過程を変化させ、滞留時間は減少すると考えられる。従って、TJGは局所的な海水浄化方策の一つとしての活用が期待されている。このTJGによって発生する潮汐噴流の流れ特性を、厳密な3次元のナビエ・ストークス方程式を解いて数値的に解析するために、有限差分近似法の一つであるNS-MAC-TIDE法を開発した。  本研究で開発されたNS-MAC-TIDE法と3種類の異なる数値計算法(3D-ADI法、離散渦法(DVM)、CIP-CSF法)により造流堤開口部における最大流速を各々推定し、水理模型実験結果と比較した。ここで、NS-MAC-TIDE法とCIP-CSF法はナビエ・ストークス方程式の厳密な3次元解法であるのに対し、3D-ADIは静水圧近似の3次元解法、DVMは水深平均値を用いた2次元解法である。TJGの開口率が小さく潮汐噴流が強い計算条件の下では、水深方向の現象が単純化された計算方法である3D-ADIやDVMは実験結果を正確に再現することができないが、厳密な3次元解法であるNS-MAC-TIDE法およびCIP-CSF法は実験結果を正確に再現することができることが示された。  また、NS-MAC-TIDE法を用いた計算結果から次のことが示された。1TJGにより発生する噴流は、下げ潮の前半では加速噴流、後半には減速噴流と噴流の特性は大きく変化し、下げ潮や上げ潮速度最大時に低層において、はっきりとした接地境界層が形成されている。2TJG周辺におけるせん断流速の計算結果から、粒子に対する底面から上方への拡散の強化、掃流力の空間的な急変による掘れおよび堆積の発生に関して定量的な評価を行うことが可能となった。3TJGの前面海域における物質循環や移送過程を再現するため濃度拡散のシミュレーションを行い、それらの滞留時間を数値的に予測することができた。これらの検討は、実験や観測によって推定することは精度上困難であり、NS-MAC-TIDE法による成果である。  こうした検討により、本研究で開発されたNS-MAC-TIDE法は、潮汐噴流の生成・発達・逸散等の物理的プロセスを再現することができる方法であり、流れ場の詳細な構造などを理解するために有効であることが示された。
全文 /PDF/vol039-no02-01.pdf