研究について

研究成果

沖波の方向スペクトルの出現特性(第2報)-いわき沖における7か年方向スペクトル統計-

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 035-01-03 1996年03月
執筆者 清水勝義、永井紀彦、橋本典明
所属 水工部 海洋エネルギー利用研究室
要旨  港湾開発は今後ますます大規模化・大水深化する傾向にある。波浪に関する正確で総合的な情報をとらえることは、港湾の計画・設計・施工のいずれの分野においても重要で、今後、現在用いられている有義波諸元に加えて、波浪を総合的に記述する方向スペクトルの出現特性を把握する必要性が増大していくものと思われる。  前報では、いわき沖で観測される方向スペクトルの特性を解明すべく、1989年および1990年の2年間の観測結果をもとに、方向スペクトルの通年的な変動特性について、気象擾乱時における方向スペクトル形状と気象擾乱の種類・進路との関係について、波浪場の代表波向について、波高・波向に関する沿岸域の観測結果との関係について、それぞれ検討を行っている。  本研究では、前報で対象とした観測を含めた約7年間の観測結果をもとに、方向スペクトルの月別の出現特性を把握するとともに、2年間の観測では把握出来なかった年による変動を明らかにした。また、特定の気象擾乱時に関する検討であった代表波向についても、様々な気象擾乱時を含めたより系統的な解析を行った。さらに、主成分分析の方向スペクトル時系列データへの適用による、方向スペクトルの変動特性の把握に試み、ブレットシュナイダー(Bretschneider)・光易型周波数スペクトルおよび光易型方向分布関数による方向スペクトル標準型の、方向スペクトル観測値への適合性も検討した。  今回の研究により得られた主要な結論は継ぎに示すとおりである。 1。周波数および波高に関して方向スペクトルを積分して得られる波向別および周期別のエネルギー分布の年別・月別平均値を求めて、経年変動や季節変動を明らかにした。エネルギー分布の月別平均値は、年毎にその月に生じた気象擾乱によって大きく変動することが示された。 2。多方向から波浪が来襲する場合、平均波向のような波向に関する代表諸元がどの程度多様な方向スペクトル特性を代表しうるかに関して検討を行った。この結果、特に双峰型の方向スペクトル形状の場合は、方向スペクトルのピーク波向と平均波向の相関は極めて低くなることが示された。波向に関する代表諸元の船底にあたっては、その目的に会わせた適切な選定を行う必要がある。 3。方向スペクトル標準型の、高波ピーク時の方向スペクトル実測値へのあてはめを行った結果、最小自乗法によって求めた適合Smaxとしては10程度のケースが多く、方向スペ クトル標準型の採用は、波向ピーク時においては、妥当な場合が多いことが示された。ただし、スペクトル形状は、実測値と標準形は完全には一致せず、主観的形状評価から見ると形状が異なっていることが多い。 4。主成分分析を方向スペクトル時系列データに適用した結果、上位数個の主成分で、方向スペクトルの変動の多くは再現可能であり、本手法は、波の発達から減衰の仮定における方向スペクトルの時系列変化の概要を把握するためには有効な手法であることが示された。なお、各主成分の物理的意味を考察すると、第1主成分は波の平均エネルギーに、第2および第3主成分は方向スペクトルのピーク波向およびピーク値に、それぞれ関連する主成分であると考えられる、また、第4主成分は、S系の低周波側にエネルギーが集中するときに、その意味が明確となる主成分であると考えられる。
全文 /PDF/vol035-no01-03.pdf