研究について

研究成果

ガストレーサーを用いた流水の再曝気係数の測定

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 0562 1986年09月
執筆者 細川恭史
所属 水工部 高潮津波研究室
要旨

水の流れにより水表面から水中へ酸素が溶解し、この溶解の速さを再曝気係数で表す。従来、酸素の再曝気係数測定には、溶存酸素の初期濃度を下げた後、再曝気による濃度回復を追跡する方法が専ら採用されてきた。ここでは、他の難溶性ガスをガストレーサーとして用い、流水中でのこのガスの溶存濃度の変化を追跡することにより揮散速度を見積もり、もって酸素の再曝気係数を算定する手法を実河川に適用してみている。すなわち、溶存物質濃度の流水中の変化を、1次元拡散式で近似し、1次元拡散式に揮散による減少項を加え、流下点での濃度変化より揮散速度を算定している。
 対象とした河川は、米国ニューヨーク州にあるデラウェア河の支流の1つで、流量0.1m3/s程度の小河川である。用いたガストレーサーは、低分子量炭化水素ガスのエチレンC2H4である。同時に非揮発性染料トレーサーとして、蛍光染料ローダミンWTを投入している。投入点より流下方向に800mまで、3ヵ所で5分ごとに採水を行い、蛍光光度計および簡易ガスクロマトグラフ計で両トレーサー濃度の時間内変化を測定している。
 蛍光染料の濃度変化と比較してガストレーサーの変化では、大気への揮散による濃度減少が顕著である。染料の変化より平均流速が14cm/sと見積もられ、ガストレーサーの変化等から揮散速度が16/dと見積もられる。酸素とエチレンとの揮散速度比から酸素の再曝気係数を求めると、20℃で20/dとなる。
 この値を小河川へ提案されている再曝気係数予測式と比較すると、非等方性乱れに対するO'Connor1の式の値非常に近い値となる。
 小河川の再曝気係数の実測を通し、ガストレーサー法の有効性を確認した。気液境界での物質移動現象の研究に対し、ガストレーサーの応用範囲は広いと思われる。

全文 /PDF/no0562.pdf