ライフサイクルマネジメントセンター

SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)

Life Cycle Management Research Center

 総合科学技術・イノベーション会議が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために新たに創設するプログラムです。
  当研究所では、平成26 年度SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)第1期の11課題のうち「次世代海洋資源調査技術」、「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」、「レジリエントな防災・減災機能の強化」の3 課題に関し、4つのテーマについて今まで培った技術を活かして更なる技術の発展を目指して民間企業、大学、他の独立行政法人等と共同して研究開発を行いました。
  本ページでは、「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」にて実施しているテーマ「港湾構造物のライフサイクルマネジメントの高度化のための点検診断および性能評価に関する技術開発」について紹介します。

港湾構造物のライフサイクルマネジメントの高度化のための点検診断および性能評価に関する技術開発

研究開発の目的

 港湾構造物は、物流・人流ネットワークを担うきわめて重要な基幹インフラである。主要な物流基幹としての役割を担う港湾構造物については国自らが整備することが多いが、その施設は国有港湾施設でありながら、維持管理については地方自治体などの港湾管理者が大部分を担う仕組みとなっている。このため、港湾管理者の財政負担能力や技術力等を勘案した、より実践的で無駄の無い維持管理支援技術の開発とその実装が喫緊の課題となっている。
  本研究では、港湾構造物のうち、特に維持管理上の課題が多いとされる桟橋を対象として、点検診断、評価およびマネジメントに関する支援技術を開発することによって、港湾インフラの維持管理業務の効率化を図るとともに、国際競争力の維持・向上や重要防災拠点としての港湾インフラの機能維持に貢献することを目的とした。

研究実施体制

  • 研究開発グループ

pari

国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所港湾空港技術研究所

  • 共同研究グループ

国立大学法人東京工業大学

国立大学法人東京工業大学

学校法人東京理科大学

学校法人東京理科大学

東亜建設工業株式会社

東亜建設工業株式会社

株式会社ナカボーテック

株式会社ナカボーテック

研究開発の内容

 港湾構造物のためのより実践的で効率的な点検診断・評価・マネジメントに関する支援技術の開発とその社会実装に向けて、以下の研究開発に取り組んだ。

  • マネジメントタイプに適した点検診断技術の開発
  • 個別施設または施設群でライフサイクルコストを最適化するための維持管理計画の策定方法の提案
  • 国等が定める技術基準・維持管理指針類への開発技術の反映方法の検討

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研究開発された技術・成果

◆マネジメントタイプに適した点検診断技術の開発

  • 桟橋の点検診断や補修等の対策を実施する場合、実施期間中の施設の利用可否や代替施設の有無等を検討することが重要となる。これは、点検診断や対策の実施による施設の利用停止が、他の施設の利用や港湾全体の収益に直接的に影響を及ぼすためである。現在、多くの桟橋で劣化や損傷が確認されている。本研究では、これらの維持管理優先度を決定するため、性能低下と便益を軸としたマトリクスを提案した。
  • 桟橋群全体として予防保全的な維持管理を実現するためには、Type 1に分類される桟橋に対して、予防保全を継続するに相応しい点検診断・評価手法が適用されるべきである。また、Type 2に分類される桟橋については、適切な対策を施し、順次 Type 1に移行していくことが重要となる。Type 1への移行までの間は、劣化や損傷の進行状況を把握し、性能低下を評価するための点検診断・評価手法を適用する必要がある。本研究では、Type 1:予防保全マネジメント型に適した点検診断技術と、Type 2:対策優先度評価マネジメント型に適した点検診断技術を開発した。

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1) ペトロラタム被覆防食用センサ【ペトモニ】((株)ナカボーテック)
   港湾の鋼構造部材(L.W.L.-1.0m以上)は、被覆防食による防食を施すことが義務化されている。しかし、これまでは、外観の目視調査や開放点検(被覆防食を撤去して鋼材の状況を確認する点検)により、定性的に被覆防食による鋼材の防食効果を評価するのみに留まっていた。  本研究では、ペトロラタム被覆防食の防食性能を、専用センサ'ペトモニ'により定量的に評価する手法を開発し、ペトロラタム被覆防食の防食性能の低下を判断するための閾値(積算電気量)を提案した。
 【利点】開放点検が不要、定量的なデータの取得、耐用年数ではなく'性能評価'による維持管理の実現

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2) 点検診断システム【SAMSWING(サムシング)】(東亜建設工業(株))
 センサにより取得したデータを、WEB上でユーザー(施設設置者、施設管理者、専門技術者)に公開するシステム。センサが異常を検知した場合に、ユーザーに自動で警告を送信する機能を有する。異常に対する専門技術者の判断と対応方針をコメントとしてWEB画面上に表示する。本研究による既存システムの改良により、上部工用センサ4種類、下部工用センサ2種類(うち、1種類は【ペトモニ】)、環境計測センサ(温湿度、波高、流速など)への対応が可能となった。
【利点】定量的なデータの取得と蓄積、点検作業の省力化、専門技術者の関与

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3) 桟橋上部工点検用ROV(Remotely Operated Vehicle)(港湾空港技術研究所)
 GPS等の位置情報が取得できない桟橋下面において、ヒトにより行う目視調査に代わり、位置情報を付加した画像を撮影できる半没水型点検用ロボットを開発した。陸上のオペレータが操作画面上でロボットと鋼管杭の相対位置を確認しながら、遠隔操作で桟橋上部工下面の状況を撮影する。本研究における装置改良により、測位の精度向上に加えて、未撮影防止機能や衝突自動回避機能が装備された。また、測位の精度向上によって、撮影画像から劣化度判定に資する展開図をSfM/ MVSを利用して精度よく作成することができるようになった。あわせて、SfM/MVS画像による劣化診断を補助し、帳票作成を支援するソフトウェア(点検診断支援システム)を開発した。
【利点】点検作業の安全性向上、点検作業の省力化位置情報を付加した撮影画像の取得、点検データの記録・保存の効率化

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4) 桟橋の優先点検部位の検討
 桟橋の上部工(はり・床版・杭頭部)および下部工(鋼管杭・電気防食・被覆防食)については、3~5年ごとの点検の実施が義務付けられている。本研究では、桟橋の各部材・部位に発生する損傷の早期発見や、モニタリングセンサを設置する箇所の選定に向けて、耐久性および耐震性の観点から、優先的に点検すべき部位を抽出した。

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実用化の状況(運用イメージ)

 港湾インフラの維持管理実務において新技術を普及し定着させるためには、まずは、維持管理の制度的特徴を踏まえながら技術を導入するための基盤を醸成することが重要である。本研究では、下記の基準・指針類に開発技術を反映することにより、開発技術を実務に導入するための基盤を整備した。

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 開発した各種点検診断技術は、港湾インフラの維持管理実務で広く利用できるよう、下表に示すとおり運用する。ただし、施設の状況(利用形態、管理体制、構造形式、環境条件、現状の性能低下程度等)と点検診断の目的に応じて、各種点検技術の適用の可否を個別に検討する必要がある。

点検技術 運用
ペトモニ センサ販売中。設置位置やモニタリング・解析方法等については、(株)ナカボーテックが個別施設ごとに対応。
SAMSWING サーバー使用・保守を東亜建設工業(株)が担当。使用するセンサや設置位置、モニタリング方法等については、港湾空港技術研究所または東亜建設工業(株)が個別施設ごとに対応。なお、国管理施設については、維持管理専門技術者として港湾空港技術研究所を配置することが可能。管理・運用等の体制については応相談。

桟橋上部工

点検用ROV

機器一式および操作用ソフトウェアの貸出。ただし、事前に、港湾空港技術研究所にて実施する操作講習の受講が必要。適用の可否判断や画像データの処理方法等については、港湾空港技術研究所が個別施設ごとに対応。

 開発技術の資料・リンク

SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の関連リンク

1.内閣府(内閣府Webサイト)
2.国立研究開発法人 科学技術振興機構(JSTWebサイト)
3.当研究所関連ページ

4.研究成果一覧 (2019.4.1時点)