研究について

研究成果

東京湾内及び湾口の水温が外洋水の波及から受ける影響

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1416 2024年03月
執筆者 大倉 翔太、細川 真也、本間 翔太、和泉 隆夫、内山 雄介
所属 海洋環境制御システム研究領域 海洋環境情報研究グループ
要旨

 東京湾の水温は,長期的な上昇傾向にあることが報告されており,その要因の一つとして,外洋水の波及効果の影響が考えられている.しかし,外洋水の波及と長期的な水温変動の関係は十分に検証されていない.衛星によって観測されている海表面水温(Sea Surface Temperature, SST)のデータは,東 京湾及び周辺外洋域を広域的かつ20 年以上の長期間にわたって捉えており,東京湾の水温変動が外洋水から受ける影響を検証できる可能性がある.本研究では,2003年から2022 年までの20年間を対象として,外洋水が東京湾及び周辺外洋域における水温の長期的な水温変動にどのように,どの程度影響しているかを検証した.この検証の中では,2004年7 月から2005年8 月までの期間と2017年8 月から2022年12月までの期間に見られた黒潮大蛇行に着目した.さらに,湾口及び湾内の水温上昇を支配する要因の特定を試みた.解析から以下の結果を得た.東京湾周辺海域の水温は,伊豆大島南西部 付近で大きく年間変動する空間的特徴を有しており,その時間的特徴は,黒潮大蛇行期にこの場所を高水温にさせるものであった.伊豆大島南西部の1点に着目した解析では,本研究の全対象期間において水温が上昇傾向にある月が多く見られたが,その上昇傾向は,黒潮大蛇行期を含む2018年から2022 年までの5 年間を除けば,8月以外の月で見られなかった.東京湾の湾口及び湾内の1点に着目した場合でも,この5 年間を含むか含まないかによって上昇傾向の見え方が変わった.湾口の水温変動は,1年を通して伊豆大島南西部の水温変動と関係する結果が得られ,外洋水の波及の影響が湾口にまで強く及ぶことが明確に示された.湾内においては,湾口に比べてその関係が弱くなったものの, やはり伊豆大島南西部の水温変動が影響している可能性が示された.本研究の成果は,東京湾周辺の水温の長期変動の傾向が黒潮大蛇行に強く依存する事,及び東京湾の水環境の変化を理解する上で外 洋水の影響を考慮する重要性を,長期データに基づいて示した初めての報告である.

キーワード:東京湾,外洋,水温上昇,SST,黒潮

全文 TECHNICAL NOTE1416(PDF/10,822KB)